Line of demarcation 5


 お昼になり、柴田は社内食堂に向かった。日替わりで代わるメニューは今日は定番のカレーライス――献立はカレーライスになっていたが、これはライスカレーだ――であり、五百円を払って柴田はいつもの定位置に座る。

 別に席が決まっているわけでもないのだが、柴田は同じ席に座ってしまう癖がある。仮に柴田のようにこの癖がなかったとしても、自然と席は決まってくるものなのだが。

 柴田は一口お茶を飲んでから、福神漬けをパッケージから取り出し、ご飯の端っこの辺りに中身を出した。そして福神漬けを一つスプーンで掬い、カレーのルーとご飯を一緒に口に運んだ。

 柴田の後ろの女の子達が昼休みのためか、高いトーンでわいわいと騒いでいる。女の子達の話は転勤してくる社員のことで持ちきりだった。

 彼女らを横目に柴田がため息をつくと「不景気な顔してんなー」と能天気な声が入り、柴田の前の席にカレーライスのトレイを持った一人の男が座った。

 おでん屋で絡んできた金曜日晩の男だ。


「よお、この前は悪かったな。酒が入るとどうしても口煩くなるらしい」

「……あれだけ酒飲んでて、自分のやったのこと覚えてるのか?」

「覚えてねえけど、家内に聞いた。お前柴田健斗だろ? 営業部の」


 そこまで話して柴田はおかしなことに気が付いた。


「何であんたは此処に居るんだよ?」

「聞いてないのか?」

「何を?」

「俺、今日から営業部の部長の三上良哉」


 柴田は手に持っていたカレーのスプーンを取り落とした。スプーンの柄が皿のふちに当たって、カチンと陶器が鳴る。


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