振り返らなくていい


 9月がすぎると激しい運動をする事もままならなくなった。
 体育祭の練習は割と適当にすませられたが、本番となるとそうも行かない。最終手段ではあったが、体育祭は風邪という理由で休んだ。
 咳が長引いている事もあって、誰もそれを疑わなかった。


 問題が起こったのは、そんな事が続いた10月頃だった。


 クラスの仲間は俺の体調が優れない事を知っているが、他のクラスのやつになるとそうも行かないらしく。


「なあお前さ、バスケ部なんじゃねえの?」


 そう責められたのは、体育の授業の時だった。
 2クラスが合同になって行う体育のバスケの授業。元々やる気の無さそうなメンツが集まった上、隆二も居たから安心した節があったが、中でもそいつは適当にやる俺が気に食わなかったらしい。
 1試合目が終わって、チームが入れ替わるタイミングでそれは起こった。


「素人には本気だせねえの?」


 嫉妬心が混じった、皮肉に歪む顔。
 体育の授業でしか顔を合わせないそいつは、風貌は不良と呼ばれる類い。しかし、見た目とのギャップは裏腹に、意外に内心は熱いやつなのだろう。
 こういった争い事を難なく納める肝心の隆二は、今は審判に駆り出されていて近くには居なかった。


「悪い、膝が本調子じゃなくて、激しく走れないんだ」

「またそれかよ。お前さ、体育祭休んだのサボりだろ?」

「いや、本当に風邪で」

「いつからだよ。ほんっと都合の良い風邪だな」


 嫌にその声が響いて、周囲が凍り付いたように静かになった。


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