君の存在に捧ぐ 1
体育館にボールをつく音と、バッシュのゴムが鳴る音がする。
夏のインハイも近い。
選手達はいつも以上に気合いが入っているが、同時に焦りによるミスも多かった。
試合が終わり、メンバーは休憩を取りながら、監督の代わりをしている俺に意見を求めるべく、水を片手にやってくる。
今日は監督は夕方からしか来れないため、それまでは俺がこの場を仕切ることになっていた。
靱帯を切って、バスケが出来なくなってからの俺を知っている仲間たちは、嫌な顔ひとつせず、真剣に俺の忠告を聞いてくれるのだ。
元々一緒に戦ってきた仲間だからこそ分かる欠点。その欠点をどうすればカバー出来るのか。試合をしている時とは違い、客観的に見ていると見えてくることも圧倒的に多かった。
「小黒(おぐろ)は軸がぶれてる。肩が上がってたらシュートは入らない。パスを貰って、自分の中で一呼吸置かないと」
「ああ、そうか」
「俺は?」
「仁田(にた)は、」
言いかけて喉が詰まった。
そのまませり上がってきた咳を抑える術はなく、体を折って激しく咳き込む。
止めよう。
そう思うのに、えずくような激しい咳は止まらず、なんとか空気を吸い込もうとして、喉がひゅうひゅうと鳴った。