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どこか期待した眼差しで寛が俺を見ていた。
考えなくても、分かる。幼なじみである自分が、一番に賛同しなければいけないという事は。
「そっか、おめでとう!」
顔にありったけの笑顔を押し出して、笑った。
表情筋の感覚。いつもどんなだった?
うまく笑えているのか、よく分からなかった。
「ありがとう。お前に一番最初に言いたくて」
「うん、本当に良かったね。でも、いつから?」
「実は、お互い一目惚れで」
寛がいつもの居酒屋の暖簾をくぐって、中に入っていく。
なぜだかその暖簾をくぐり抜けて中に入ると、本当に寛の結婚を認めてしまうみたいで怖かった。
一目惚れ?
30年近く一緒にいて、どこの誰かも分からない女にあっさり寛を奪われるのか。
その事実が絶望的で、でも実に現実的だった。
神様は時に酷く残酷な事をする。
「隆二?」
いつまでも入ってこない事に疑問を思ったのか、寛が店内から出てくる。
「寛……」
「ん?」
俺が想いを告げたら、運命は何か変わるのかな。
結婚するという事実が変わったり。
気持ちを受け入れたりしてくれる事があるのかな。
想いを告げた後でも、寛と一緒にいれる?
答えは分からない。
それでも、少しでも寛の心に俺が残ればいい、と期待してしまう自分がいる。
「寛が……好きなんだ」
見開かれる寛の瞳。
次の瞬間には、寛がこちらを見ていた。
酷く悲しげな顔。
寛からの言葉を聞く前に、景色が歪んだ。