保護者化


 その後、どうやって寮まで帰ったのか曖昧だった。

 伊吹と部屋が別になった事を申し訳なさそうに、説明されて、気がついたら部屋のベッドに寝転がっていた。



 隆二。隆二。



 腕で目を覆う。
 涙は後から後から溢れて止まりそうも無かった。





 ポケットに入れていた携帯が振動する。ディスプレイを確認すると、伊吹だった。

 涙を拭って、大きく深呼吸をする。今泣いているのが伊吹にバレたら、新しい学園に来ての不安だと思われるだろう。無駄な心配をかけたくない。

 気丈を装って、電話に出た。


「もしもし?」

――あ、もしもし、織? さっき元気無かったけど、ちゃんと同室者
の人に挨拶出来た?

「同室者……」

――やっぱり。部屋に帰って、研究資料読んでたんでしょ?

「あ、うん、そうなんだ。ちゃんと同室者に挨拶してくるよ」

――これから一緒に生活していくんだから、最初は大事だよ?

「分かってるって」


 伊吹はいつから、俺のお母さん化したんだっけ。


――……やっぱり、織元気ない。熱は計った?

「大丈夫。ちょっと、急に思いついた研究議題があって」


 そう言うと、電話口の伊吹は納得したようだった。


――あまり無理しないでね。理事長さんも言ってたけど、学生生活を楽しむ為にこの学園に来たんだからね。

「ああ、分かってる」


 その後適当に相づちを打って、電話を切った。


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