聞けなかったこと。聞きたかったこと。
俺も覚えてるよ。
その一言が出てくるはずもなく、「そう、なんですか……」と頷いた。
「こんな話をされても困ったよね。中年男の戯言として、流してくれると嬉しいな」
もう一度会いたくない。
そう言ったその口で、今でも好きだとでもいうように思い出を語る隆二に、内心少し戸惑う。
でも、隆二の表情をみていたら、きっともう一度会いたくないと思う理由が別にあるんだと、そう思えた。
「その彼にとっても、この場所は思い出の場所だと思います」
「そう思って旅立ってくれてたらいいなぁ」
懐かしむように隆二が目を細める。
「理事長は、なんで彼の余命があと僅かだと分かっていて、気持ちを伝えようと思ったんですか?」
「そうだねぇ.....私が彼を1人にしたくなかったからかな」
どういうことですか?
言葉にはしなかったが、聞き返すように隆二の顔を振り返れば、隆二が柔らかく微笑んだ。