シナリオ3
帰ってきた薫を見たらこらえていたものが溢れてきそうになって、帰ってきてホットミルクを入れる薫の背中に抱きついた。
こうしていると、不安な気持ちがすごく落ち着いた。
斯波はさっきどんな気持ちで俺の背中に抱きついていたのだろう。
「大丈夫だったか?」
「うん、ありがとう。気を遣わせちゃってごめん……」
「大丈夫だ」
「…………これでよかったのかな」
薫には聞いて欲しくて、事のあらましを掻い摘んで説明した。
話を聞き終わると薫のお腹の前に回していた手に薫の手が重なった。
「許さなかったんだ。俺は斯波を。これで本当に良かったのかな……」
「あとは斯波次第だ」
「うん……」
「なるようになる」
「そうだな。聞いてくれてありがとう」
「ああ」
もやもやした気持ちが全部晴れたわけではなかったが、吐き出せば少し息がし易くなった気がした。
初めて会ったとき、ユダのようだと思った。
斯波も、自分をそれにぴったりだと言った。
出会いは突然で、藁をも掴みたいあの時の自分にとっても、斯波にとっても、お互いが都合の良い存在だったのかもしれない。
道を違える時は一瞬。
このままの甘えた関係では、きっとお互いがお互いを駄目にしてしまう。
だからこそ、今は距離が必要だと思った。
扉の先へ消える斯波を見届けたとき、何度も自問した。
きっとこれも明確な答えは出ない。
”これでよかったのだろうか”という問いを飲み込み、意識は微睡みの奥に消えて行った。