憧れの人の隣にいる人(side:Kaoru)


薫side


 息苦しいような喉が鳴るような音「ああ」という伊織の声を聞いて、伊織が抱える問題の多さを痛感した。


 しばらくすれば、すぅすぅと寝息が聞こえてくる。よくソファで寝ている伊織を部屋に連れて行くときのように、起こさないようにベッドに運ぶ。


 眉間に皺を寄せて寝息を立てる伊織をぼうっと眺めた。


 憧れの叔父さんが目の前にいる。寛人さんのバスケの大会の古いテープは、テープが擦り切れるくらい見返した。
 同じ血縁で、こんなにも動けるということが、スランプに陥った時の自信にもつながったし、努力の糧にしてきた。


 そんな憧れの叔父さんが今目の前にいる。
 これを嬉しく思わないはずなんかないはずだ。




 それなのに、意図しないところで極端に動揺してる自分がいたことに驚いた。正直あの時、席を外すタイミングが生まれて良かったとすら思った。


 外見なんか関係ない。
 生まれ変わっても人は変わらない。



 その考えの根底が覆されたような、しっくりこない感覚。



 自分は確かに、伊織が叔父さんのだったことにショックを受けていて、その理由は少し考えればすぐに明確になった。




 伊織が叔父さんだったという理由が聞きたくなかったのは、高城隆二の存在を感じたくなかったからだ。



 憧れであればあるほど遠くなり、その憧れの人にはゆるがないあの人がいることも、昔から嫌という程知っていた。






 胸には、霧に向かって闇雲に走るような感覚が広がっていた。




薫side.end

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