シナリオ
この選択が正しいかは分からない。
どちらを選んでも相応のデメリットは存在するし、俺との折衝だけで他人の人生が変わるなんて普段なら毛頭思わなかっただろう。
だが、この選択を間違えてはいけないと直感的に感じたのは事実で、それを感じたのは斯波の危うさからだった。
「話はそれだけか?」
「え?」
「話はそれだけか、って聞いてるんだ」
「あ、うん」
描いたシナリオ通りに行くかは一か八かだった。
「なら夜も遅いし帰ってくれ」
ここで突き放す。
一縷の望みも持たせぬよう、バッサリと。
「え……」
絶望した表情で放心する斯波をよそに、ソファから立ち上がる。
「待って、伊織ちゃん」
呼び止める声を無視して、玄関へと向かえば、背中に強い衝撃が走った。
「お願いだから、待って」
余裕のある斯波からは想像も出来ないくらい弱々しい声だった。