もう逃げない2
斯波から言葉が無くなった。
「なんで毎週金曜10時に教会で会う事にしたんだ?」
言葉が無い斯波にどんどん言葉を投げかける。
「身体だけじゃない関係を望んでたからじゃないのか?」
「……黙れ」
「黙らない。秘密を通して繋がっていたものがなくなったら、なんの関係でもなくなるのか?」
「黙れ!」
「黙らない! 俺は斯波と会うの楽しかったし、週末の楽しみでもあった。斯波は?」
「黙らないと、本当に犯す」
きっとユダにも譲れないものがあったんだ。
今ならイエスを裏切ったユダの気持ちが分かるような気がした。ユダは誰よりも人間臭くて、誰よりも一人だったんじゃないだろうか。
人を信用できない。信用出来るのは、形あるものだけ。
そして斯波も。
「一人で抱え込むなよ」
それは、かつて斯波に言われた言葉だった。
「斯波に話さなかったら、俺は前に進めなかった。斯波に話を聞いてもらって、アドバイスを貰って、伊吹にも兄にも話そうと思えたんだ」
「もう黙って」
「んっ」
口を塞がれた。
言葉の語気の荒さとは裏腹に、弱々しくて優しいキスだった。