注がれる油
「俺と会うのは小鳥ちゃんの中でただの義務?」
苛立ちを隠さない斯波の言葉に俺は一瞬何を言っているのか分からなかった。
最近の斯波はどこか苛ついていたのは知っていた。
そんな斯波の話を聞かないとどうなるかなんて目に見えていたはずだったのに、時差ぼけでの眠気には勝てるはずもなく、結果火に油を注いでしまった訳だった。
「本当に悪い。時差ぼけで眠くて」
「義務って所は否定しないのか?」
「義務なんかじゃ、」
「言われてから否定したんじゃ遅いよ」
低い声でそう言われて、ぐっと腕を取られ引き寄せられた。
次に何をするのか斯波の行動が予測出来てしまって、ぎょっとする。
「やめろっ」
唇に触れるか触れないかの寸前で顔を背ければ、顎を強く掴まれて無理矢理息を塞がれた。
「んぁっ」
最近は直接的に触ってくる事が無かったからか、完全に油断していた。
ぐっと胸を押し返せば、呆気なく斯波は離れた。
「何やってるんだ」
「何ってナニ?」
いつも通りのその返事。でもいつもと違うのは明らかに斯波が苛立っていることだった。
なんでそんなに苛立っているんだよ、と聞きたくなる気持ちをぐっと抑える。
「………」
「おい黙るなよ」
いつにも無い乱暴な口調に背筋が凍る。これは本当にマズい。
「この埋め合わせは今度するから」
「へえ、ナニしてくれんの?」
「する訳ないだろ」
此処で下手に頷けば実行に移すのが斯波だ。
いつもの調子で冗談を否定したものの、それがマズかった事を知ったのは斯波の熱に灼かれた目を見た次の瞬間だった。