小さな嘘


 空港から学園に向かう途中、「この辺りで降ろしてもらっていいですか」と運転手の山口さんに言えば
「はい、わかりました」と路肩で車を止めてくれた。


「どこ行くの?」


 それを見ていた伊吹が不思議そうに首を傾げる。


「ちょっと忘れ物を思い出したんだ。伊吹は疲れているだろうから、先に学園に戻っていてくれ」

「僕も一緒にいくよ?」

「一人で大丈夫だ」

「……どこにいくの?」


 もう一度伊吹が聞いてくる。


 行きたいところは、寛人だった時の墓があるこの間行った霊園だった。外出届を出さなきゃ外に出れない学園内の中に入る前に、もう一度あの場所に行ってみたかった。
 だが、それを正直に答えたとしても、伊吹にとって疑問を拭えるはずもない。


「薫の家に。すぐ戻るから」


 小さな嘘。
 そういってしまえばそうだが、嘘であることにはなんら変わりはない。胸が痛んだが、俺の言葉に納得したように伊吹がなるほどと頷いてくれてホッとする。


「そっか。じゃあ、僕は先に行っとくね」

「ああ、ごめんな。また後で」

「うん」


 伊吹と別れを告げて、道でタクシーを拾った。


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