後輩のお願い
「少しお時間よろしいですか?」
そう言われて頷けば、ここじゃ話ずらいので場所を変えたいと提案された。
表面のみ薄く茶色に染められている髪をワックスでふわっとさせた黒髪に、大きな瞳。小柄な体躯からすると、この学校流で言えば、チワワ系と分類されるであろう。
でも不思議なのは、チワワ系に分類される可愛らしい外見でありながら、瞳の奥に宿る光の強さは獰猛な獣を連想させる所だ。
話す雰囲気からも可愛らしさは微塵も感じない。義務的で、淡々とした口調が印象的だった。
「ああ。分かった」
ホームルームも終わっているため、促されるままに屋上へと続く階段の踊り場にたどり着く。
「で、話って?」
「先輩が編入してから、ずっと見てました。俺とお付き合いして頂けませんか?」
真剣に見つめてくる目、言われた突然の言葉に面食らった。
初めて出会った人に、初めて出会った日に告白されれば、誰だって困惑するだろう。
返す言葉が見つからず、困惑している俺が見えたのか、目の前の土岐津はすみません、と謝って来た。
「やっぱり駄目ですよね」
「ごめん……」
沈黙する空気。
耐えきれなくなって、もう一度、本当にごめんなさい、と深く謝った。
「最初から分かってました。でも、スッキリさせたかったんです」
「本当にごめん」
「謝らないで下さい。本当に俺は伝えられただけで満足なので」
獰猛に感じられた目を細めて、土岐津がくしゃっと笑った。可愛らしいその姿に一瞬ドキっとさせられる。
「うん」
「あの、せめて……ファンクラブを作ること許して下さいませんか?」
「ファンクラブ?」
聞こえてきた言葉の異様さに、俺は思わず聞き返した。