俺は何も見なかった
重くため息を吐いた。
暗い部屋で悶々としていてもどうしようもない。
すっかり暗くなったと思い、部屋の電気を探してつけた。
明るくなった部屋の壁に張られた、とあるポスターに俺は思わず二度見した。何かのポスターがあるとは思っていたが、さっきは暗くてよく見えなかったのだ。
「なんだこれ……」
学会発表中の自分の写真が引き延ばされ、ポスターサイズになって壁に張られている。
ポインターを右手に持ち、目線はしっかりカメラの方を見ている自分。
「……」
比べてみれば、ほぼ等身大。
自分の等身大ポスターなんかあっても嬉しくも何ともないのだが。
なんとも言えない気持ちになって、俺はそのポスターから目を逸らした。
「俺は何も見なかった。何も見なかった」
呪文のように唱えてもポスターは消える訳ではないが、唱えずにはいられない。枕元に視線を移せば、この間の文化祭の神との2ショットが写真立てに入れられている。
――ネガからカメラマンから買い抑えましたし、すり切れる程ビデオは見返した
みたいな事を言っていたような気がする。
仕事部屋の奥の部屋という事は、仮眠室といえど、神の私室という事になるのだろう。
「まさか他にもあるとか言わないよな」
まさかな。
悪いとは思いつつも、ifを確認したい気持ちが抑えきれず、クローゼットをそっと開いた。
沈黙。
そのままクローゼットをそっと閉じ、猛烈な羞恥心と共に頭を抱えた。