Betrayal(裏切り)


「神っ!」


 俺の呼びかけに応ずることなく、俺を所曰く”お姫様だっこ”した状態で、寮に向かって力強い歩調で進んで行く。
 怒り以上の感情を感じて、俺は良い知れぬ恐怖に神の顔をまともに見れなかった。

 逃げ出したい。

 そう思っても、見た目以上に力がある神の腕から逃れる事は不可能で、俺はなすがままになるしかなかった。




 神が教会に入ってきた後、斯波が火に油を注ぐように、「お別れのキスするんだから一回扉しめてよ会長」と臆面もなく言い放ったのだ。
 固まる会長を尻目に、斯波は本当に俺にキスを迫ってきた。そのキスを避けるように、ぐいっと突如引っ張られた俺は、会長に抱きとめられていた。

 弁明の余地はなかった。
 きっと、何を言っても信じてくれない事は安易に想像がついた。何を言っても、言い訳にしか聞こえなくて、言葉が出なかった。


「横恋慕?」

「黙れ」


 低い声で、しかし良く通る声でそれだけ言うと、神はそのまま俺を抱え上げた。


「お、下ろせっ」


 俺の言葉を聞き入れる事はなかった。


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