分かりきった答え
次の日の放課後。俺は薫と一緒に部活見学をさせてもらう事になった。
HRを含め、授業中はバスケの事で頭がいっぱいで、バスケが出来る理由を必死で考えている自分に内心笑ってしまった。
どこまでもいっても、俺はやっぱりバスケが好きなんだろう。
今までバスケから遠のいていた。
考えないようにもしていたし、隣には伊吹もいた。
それに、バスケを始めてしまったら、また同じ轍を踏みそうな気がして怖かった。
バスケに熱中して、靭帯を切って。それこそ本末転倒も良い所じゃないか。
頭ではそう分かっているのに、どこかで違う道を探していて。
第一、今の俺はバスケにほとんど触れた事がないのだ。伊吹だって、俺がバスケを出来るなんて事知らない。
むしろ、前世に繋がる鍵、知られて良い訳がない。
そんな俺が、素人や見よう見まねだと言って、伊吹や薫を誤摩化せるレベルはたかが知れている。
言葉や嘘で人を誤摩化すのは、出来るかもしれない。
でも、それが行動レベル、運動レベルまで引き上がれば別だ。
ペテン師でもなければ、詐欺師でもスパイでもない俺に、そんな事が出来るとは到底思えなかった。
「伊織?」
「………」
「伊織ちゃーん? 聞こえてへんの?」
「あ、ごめ。何?」
呼ばれていることにも気がつかなかったらしい。
周りは帰り支度を始めていて、数学はいつの間にか終わり、終業のHRになっていた事に気がついた。