予想外
昨日劇を見たからと言って、第一体育館でやっていた大きなステージで見たくらいで、直接こうして対面するのは2週間ぶり位だった。
生まれてから2週間も何も話さなかった事なんか無いだろう。
何を話せばいいのか。
いざ目の前にすると、適切な言葉が浮かばず、口を開けることが出来なかった。
「……」
「……」
目の前の伊吹も同じ事を考えているのだろう。
沈黙が周りの音に上書きされる。
隣にいた薫は気を使ったのか、何も言わずに向こうへ行ってしまった。
「……会いたかった」
伊吹から出てきたのは、そんな言葉だった。
予想外の言葉に俺は瞠目する。
その嬉しい予想外に、思わず頬が緩んだ。
「俺も、会いたかったよ」
そう言って俺が手を伸ばすと、伊吹の顔がくしゃっと泣き顔になって、そのまま強く抱きしめられた。
勢い良く抱きつかれた為、後ろに倒れそうになるが、俺も泣きじゃくる弟を強く抱きしめ返した。