01


小さい頃は誰もが同じものを見ていると思ってた。声だって聞こえるし触れることだってできる。だから生きているものだと思ってた。

でも、本当は違ってた。

初めてソレが異質な存在なのだと気付いた時、ソレが当たり前に存在するものだと認識していた”自分だけ”がおかしいことを知った。
家族と呼べる近しい人達から向けられたあの目は、そこに混じった畏怖の念は、真実を知る今に思えば、全て正しい反応だったのだろうと思う。

「おい、見張りのお前! なにボ〜ッとしてんだ! しっかり仕事しろよ!」
「えェ、はい……。大丈夫、異常…無しです……」

ヒトとの距離感がおかしいことに気付いた時、急激に心が冷え込むのを感じると同時に、言いようの無い寂しさが去来して、”本当の孤独”を知った。

〜〜〜〜〜

「おじさん、どうしたの?」
「まァた壁に向かって喋ってやんの!」
「え…? 壁って……」
「あいつにとっては壁がおじさんなんだから仕方が無いって!」
「変なの〜!」
「ッ……」

〜〜〜〜〜

最初こそ冗談に思われていた。でも、嘘でもなんでも無くて真面目に話しているのだと理解されると、兄妹や同じ年頃の子達から変人扱いされてバカにされるようになった。

あァ、誰も見えていないんだ。
見えなければ声を聞くことも触ることも――無い。

実の親に相談すると「変なことを言って……」と怪訝な顔をされて相手にされなかった。

見えない、聞こえない、触れない、それが普通。

なのにどうして自分だけが見えるのか、聞こえるのか、触れるのか――。
そう訴えている内に虚言癖がある子だと思われるようになって、誰にも信じてもらえずに話すら聞いてくれなくなった。

「本当になにも……、見えません」

だから――
見えない、聞こえない、触れない。
普通の人であるということを演じるようになった。

ただ――
”彼ら”は、自分が見える人間であることに気付いている。話し掛けて来るし触れても来る。時には、命を奪われそうになることだって何度かあって、自分の身を守ることができるのは自分だけだと思い知った。

強くならなきゃいけなかった。戦う術を身につけなければと強く思った。

最初は海軍兵士になろうと思った。でも、年齢を満たしていなかった自分は相手にされなかった。最も手っ取り早く強くなるにはどうすれば良いのかと考えて行き着いたのは、下っ端の雑用係としてでも良いから海賊の一員になることだった。

名も無い小さな海賊団から少しだけ名の知られた海賊団へと渡り歩いて生き抜いてきた。そうして紆余曲折を経た末に運が味方をしてくれたと言っても良いかもしれないが、世界で最も名の知れた世界最強と謳われる『白ひげ海賊団』の一員となることができた。

海賊としては一隊員の足元にも及ばないレベルかもしれない。でも、彼らも知らない”裏世界の住人がいる”中を一人で生き抜いてきた自負がある。だから、世界最強である海賊団の末席でもなんとかやれている――と、思う。

下っ端でケツの青い新人の身《正しくは襲撃した側の海賊団にいた末端の船員だった身》だから、まだまだ信頼されてはいないのはわかっている。配属先が監視の意味もあっての1番隊だと言われたが、日々真面目に働くのみだ。
たとえ嘗て世話になった海賊達に薄情だの裏切り者だのと罵られることになっても平気。たとえ一員に加えて貰った先で『裏切り者』のレッテルを張られ信頼されないまま侮蔑の目を向けられようとも平気。

全ては、

――生きる為――

なのだから。

Prologue

〆栞
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