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ヤヒロ達が乗る船の甲板では何故か地獄絵図が広がっていた。

「無理! マジ無理っす!!」
「マジで勘弁してくだせェ、できねェっすよ!」
「こ、こんなことなら、まだインペルダウンの独房にいる方が幸せだったっつー話ですぜ!」
「あ”ァ”!? 何を女々しいこと言ってんだてめェらァ!! 時間が無ェんだ!! 独房暮らしが続いて勘が鈍ってるだろうから訓練つけてやってんだろうが!? 死にたくねェなら死に物狂いでついて来い!! 泣き言は聞かねェ!! もしまた同じようなことを口にしてみろ!! そん時は……」

剣を片手にクルクルと器用に回してガッと甲板に突き刺したヤヒロは、眉間にぐっと皺を寄せ、眉をハの字に、額に青筋を張って、とてつもなく恐ろしい眼付きで「クククッ……」と悪魔のような笑みを浮かべる。そして――

「マジで挽き肉にしてやんよ……?」

と、甲板にいる囚人達をギロリと睨み付けた。
それにゾゾゾゾッと背筋に冷たい何かが突っ走って青褪めた囚人達は声を揃えて叫ぶ。
「「「はい!! 死に物狂いで頑張ります! 姐御!!」」」――と。

「ヤヒロ……、怖ェェ……」
「う、うむ……。ま、まさかこれ程とは思ってもみなんだ」
「チッ! 何故だ!? 何故ッ…! 砂のおれを掴める!?」
「鋼鉄のおれの斬撃すら腕で受け止めるなど……あり得ん」
「お、鬼だガネ! 鬼神だガネ!! 夜叉だガネー!!!」
「ヴァナータ! これじゃマリンフォードに辿り着く前に全員がくたばっちゃぶるわよ!?」
「は、ハデに強過ぎじゃねェか〜!?」

予定より早く脱出できた時間を有効に使うべきだと思い立ったヤヒロは、監獄の狭い牢獄の中でずっと閉じ込められていた彼らの戦いの勘を取り戻してやろうと「”軽く” 訓練すんぞ!」と言った。
で、『ヤヒロ vs 全員』という形式で訓練を始めるということになるのだが、ルフィやクロダイル、ジンベエやMr.1が、そんな形式で訓練になるわけがない!と口々に意見した。
しかし、いざ始めてみると囚人の殆どをあっさりと蹴散らしたヤヒロは、問答無用で彼らに襲い掛かる。好戦的で鋭い眼付きのままニヤリと笑って殴り掛かるヤヒロに誰もがゾワッと背筋に悪寒が走るのを感じた――が、その時は最早手遅れで。

ゴムゴムのピストルを躱すと腕を掴んでルフィの身体を引き寄せると同時に喧嘩殺法で顔面に蹴りを入れると、ジンベエの魚人空手が発動する前に懐へと飛び込んで頭突きをかました。

「痛ェェェェッ!?」
「ぐあっ!?」

次いで砂の能力で反撃に出るクロコダイルを意図もあっさりと胸倉を掴んで背負い投げをして引き倒し、そのまま鳩尾に膝蹴りをぶちかました。

「かはっ!?」

Mr.1が鋼鉄となって斬撃を放てばガキイイン!!と腕で止めて左アッパーで腹部を殴って、Mr.3に容赦の無い延髄蹴りを放った。

「ぐっ!?」
「痛いガネェェェ!?」

イワンコフには踵落としをかまして、バギーに至っては鼻を掴んでぶん投げた後に肘鉄を喰らわした。

「ヒーハー!?」
「ハデに痛ェェ!!」

訓練と言う名ばかりの暴挙に出たヤヒロの強さと狂暴性を目の当たりにした一行は、一気に意気消沈したのであった。

「おれ、おれは……、弱ェッ…! 海賊王にッ……、な”れ”ね”ェ”……!!」

主人公であるルフィの心は、本来エース死亡によって見事にまで圧し折られて追い込まれるはずだったのだが、この場でヤヒロによって圧し折られた――と言うか、最早粉々にまで砕かれるというイレギュラーが発生した。

「る、ルフィ君、か、確認せい! お前に残っておるものは何じゃ!?」
「……な、な"か"ま"か"い"る"よ"ぉ"っ"!!」
「あ、何かゴメン……」

ジンベエとルフィの大事な名シーンがここで発生したことに気付いたヤヒロは思わず謝罪した。

おーい! それ、まだ言っちゃいけねェ台詞だって、マジで!

この先の未来、何だかグニャグニャに変な方向に向かうんじゃないかとヤヒロは心中穏やかでなくなったのは言うまでも無い。――が、考えたって仕方が無いし、成る様ににしかならないのだから、そうなったらそうなった時の事だとして、気楽に鼻歌を歌いながら「訓練終了。各自、マリンフォード到着までに身体を慣らしておけよ!」とだけ伝えて船の先頭の甲板に寝転がった。
この時はまだヤヒロも気楽で子供のように笑い、強さと狂暴性を見せたとしても威圧はそんなに無くて可愛いぐらいのレベルだった……のだが。

「「「たぶん、きっと、今ので十分楽しく戦える気がします!!」」」

彼らからすれば余程怖かったのだろう。『海軍なんて可愛いものだ!』と彼らの心に深く刻まれた瞬間だった。そして――

「さ、流石はおれが見込んだ女なだけあるぜ……」

痛む鼻を摩りながら涙目でポツリと零したバギーの独り言を地面に突っ伏していた囚人達が耳にしてガバッと起き上がって声を上げる。

「やっぱりキャプテン・バギーって凄ェ! あのヤヒロを女にするんだから凄ェ!!」
「ふぁ!?」

囚人達の中で生じっぱなしの誤解は彼らにとっては真実で、バギーは囚人達の心を一気に掌握した瞬間でもあった。ついでに言うと――おおおれ、マジでヤヒロを女にしたら、天下を取れんじゃねェか?とバギーの野心に火が付いたのもこの時だった。

ゾクッ

「!?」

ここから離れたマリンフォードにいた海軍の元帥であるセンゴクは寒気を感じた。何やらとんでもないことが起こりそうな悪い予感が彼の心を支配する。目の前で繰り広げられる戦場に違和感を覚えながら何か別の異質なものを感じて「おかしい」とまた零した。
青雉クザンが「とんでもねェもん呼び寄せたなァ」と知ってか知らずか放った台詞は予言に近い。まさかそれが現実のものになるなんて彼らは知る由も無い。
夜叉たる鬼神とその鬼神により大至急で根性を叩き込まれたルフィ達を含むインペルダウンの囚人達の襲来まで秒読み段階に入っていた。





マルコとミホークの(似非的な)戦いの中、ミホークは何となく本気の斬撃をマルコにではなく白ひげに向けて放つことにした。
あまりに手緩い戦い方を続けていると、流石にサカズキ辺りに勘付かれる気がしたからだ。

「悪いな不死鳥」
「何!?」

ザンッ!!

「ッ!?」

マルコに向けて放ったようだが実際は違う。マルコの横を掠めるように放たれた斬撃は真っ直ぐにモビー・ディック号に佇む白ひげへと向かった。
世界一の剣豪による斬撃の威力は凄まじいものがあり、白ひげ海賊団は目を見張って誰もが「オヤジ!!」と声を上げずにはいられなかった。

「くそっ!」

焦ったマルコは斬撃を止めに行こうと両翼を羽ばたかせたのだが――。

「フッフッフッ! 楽しそうに戦ってんじゃねェか鷹の目。おれにも楽しませてくれ、なァ、不死鳥!!」
「てめェは!?」

ドフラミンゴがマルコを狙って攻撃してきた。その攻撃をなんとか躱したマルコだったが、王下七武海の二人を相手にするには分が悪い。目の前の二人に注意を払いながらマルコはモビー・ディック号へと目を向けた。
ミホークが放った斬撃は間も無く白ひげを襲う。オヤジ!とマルコは声を上げたが、斬撃とモビー・ディック号の間に割り込む男の姿を捉え、幾許か安堵した。
白ひげ3番隊隊長ジョズだ。ミホークが放った斬撃を受け止めたジョズは、そのまま力業で撥ね飛ばした。

「余所見とは余裕だな不死鳥」
「うおっ!?」

襲い掛かるドフラミンゴにハッとしたマルコは咄嗟に攻撃を躱した。その直後だ。

「躱せるか?」
「いっ!?」

ミホークは敢えて斬撃をマルコに放つ。何とか身体を捻って躱したマルコは心の中で思わず悪態吐く。――おい、こんな展開は聞いてねェぞい!と。
どうしてこうなったのか。何故に王下七武海の二人を相手にする破目になったのか。こんなイレギュラーはいらねェとばかりにマルコは舌打ちした。

ガキィィン!!

「!」
「世界一の大剣豪、おれと手合せ願う」

マルコに向けて振り翳したミホークの剣を別の男が横槍に入って受け止めた。

「白ひげ海賊団5番隊隊長、花剣のビスタか」
「大剣豪殿におれの名が知られているとは光栄だな」
「ビスタ!」
「マルコ! 鷹の目は任せろ!!」

ビスタがマルコに代わってミホークと戦い始める。

「不死鳥の相手はおれ一人か。二人の方が楽だったんだがなァ」
「確か、ドンキホーテ・ドフラミンゴっつったか」
「あァ、そうだ」
「おれに何か恨みでもあるのか?」
「いや、ただ興味があっただけだ」
「興味?」
「白ひげ海賊団に女の海賊がいたはずだ」
「!」
「確かヤヒロと言ったか?」

ドフラミンゴはニヤッと笑った。

「フッフッフッ、なかなか面白い格好をしていた。背中に青い不死鳥を背負ってやがったからな、お前と関係があるんじゃねェかと思って吹っ掛けてみたんだが、やはり特別な関係なのか?」
「は…!?」
「おれァヤヒロが気に入ったんでなァ」
「な、何……?」

まさかお前まで惚れたってェのか?と、マルコは目を丸くした。

「おれの手元に置くにはてめェが邪魔だ。ここで始末してやる」
「チッ! てめェが思ってる程ヤヒロは簡単に落とせる女じゃねェよい!」

武装色の覇気を纏わせた足でドフラミンゴに反撃したマルコは、どいつもこいつもヤヒロに簡単に惚れてんじゃねェよい!と、自分のことを棚に上げてヤヒロに『惚れた宣言』をする男共に対して怒りを露わにする。
片やビスタと剣を打ち合う傍らで会話を耳にしていたミホークは、ヤヒロの影響はおれの予想を遥かに超えたか、と若干ではあるが呆れていた。





白ひげ海賊団が戦況を押している中、センゴクは電伝虫を手にして各隊に更なる攻撃命令を下した。
湾内に現れた白ひげ海賊団の船では無く、遙か後方に姿を現わした白ひげ海賊団の傘下の船に対して砲撃を与えて合流を阻むように指示。そして、前線の砲撃部隊には次々と上陸する者達への容赦の無い砲撃を与えるように命令を下した。
砲撃はそこかしこから放たれ、益々戦場は激化していく。その戦場を高みの見物の如く見つめていた黄猿ボルサリーノは笑みを零して立ち上がった。

「まァったくぅ、流石に白ひげ海賊団は隊長達だけじゃなく一隊員まで、とことん化物染みてるねェ」

ボルサリーノの言葉を赤犬サカズキは聞いていたが沈黙を続けている。彼は腕を組んだまま未だに微動だにせず椅子に座ったままだ。そんなサカズキを気にすることも無く一歩二歩と歩き出したボルサリーノは言葉を続けた。

「被害を少なく決着けりをつけるにゃ、ちゃっちゃと頭を獲るしかねェでしょう」

全身を光に包むと拡散するようにして姿を消した。ボルサリーノが標的としたのはモビー・ディック号に佇んでいる男。そう、白ひげだ。

「流石は1番隊隊長ともなると簡単には倒せねェなァ」
「チッ!」

ガキィィン!!

「!」
「こいつの相手は僕がやるよ!」 
「ハルタ!」
「マルコ! 大将の黄猿が動いた! 行って!」

マルコとドフラミンゴの間に割り込んだのはハルタだった。戦いの最中、ハルタはボルサリーノが動くのを視界に捉えていた。
攻撃目標は恐らくオヤジだと察したハルタは、ボルサリーノの攻撃をオヤジから守り、且つ対等に戦える強さを持つのはマルコしかいないと判断してのことだ。

「悪い! 任せたよい!」

ハルタに声を掛けてからマルコはその場を離脱した。

「チッ!」
「1番隊隊長は忙しいからね。僕の相手をしてくれる? 七武海さん!」
「はっ! どいつもこいつも隊長クラスは化物染みた強さをしてやがる!」

ハルタはドフラミンゴにマルコを追わせないように激しい攻撃を繰り返して足止めした。
戦場の上空に眩い光が現れた。
隊員達は思わず足を止めて見上げた。光が形を変えて姿を現したのはボルサリーノだ。それに焦りの表情を浮かべた隊員達は声を揃えて叫んだ。

「き、黄猿が来たァァ!」

しかし、白ひげは微動だにしないまま表情一つ変えることは無い。

「オヤジ!」
「サッチ、お前はまだ動くんじゃねェぞ」

二本のサーベル剣を抜いて身構えたサッチだったが、動くなと言われてはどうすることもできない。
サッチは撤退時の切り札だ。体力を温存する為に時が来るまで待機を厳命されている。
エース奪還にはヤヒロの力が必要だ。更に白ひげ海賊団がこのマリンフォードから無事に脱出する為にも――。
激しい交戦で傷付きながらも決して士気を弱めない仲間達を見つめるサッチは、ヤヒロが少しでも早くヤヒロが到着することを強く願った。

八尺瓊勾玉やさかにのまがたま

ボルサリーノの奇襲攻撃による激しい光の弾丸が白ひげに目掛けて襲い掛かる。

「おいおい、眩しいじゃねェかァ」

それでも悠然と立ったまま光の弾丸を見つめる白ひげ。光の弾丸が迫る中を青い炎が風を切って間に割り込んだ。
白ひげの前に立ちはだかった者に気付いたボルサリーノは「んん?」と声を漏らした。

ズドォォォン!!

ボルサリーノの光の弾丸を全て受け止め、激しく爆発音を起こして光は辺りに拡散し、衝撃派による風と土埃が周囲を襲った。そして、白ひげはニヤリと笑みを零した。

「大将の攻撃を防いだ!?」
「な、何だ!?」

ボルサリーノの攻撃を防がれたことにより海軍兵に動揺が広がった。彼らが目にしたのは両腕に青い炎を纏い空中に留まるマルコの姿だ。

「ほぉう、青い炎?」

ボルサリーノは眉間に皺を寄せながらマルコをマジマジと見つめた。

「いきなり、キングは、獲れねェだろうよい」
「怖いねェ〜白ひげ海賊団」
「何だ!? あの身体!?」

海軍兵はマルコの全身を覆う青い炎に唖然として見つめた。

「黄猿さんの攻撃を正面から受けて倒れねェなんて!」
「やっぱり噂通りの能力を!?」

海軍兵の動揺は更に広がるばかりで焦りの色を濃くした。そんな海軍兵とは対照的に冷静に観察しているボルサリーノは口を開いた。

「ロギアより更に稀少。動物ゾオン系幻獣種……」

ボルサリーノの攻撃を一身に受けたマルコの身体から傷が消えていくと海軍兵がどよめいた。

「見ろ! 傷跡が消えていく!」
「信じられねェ! あれが効かねェなんて!」
「……効くよい」

笑みを浮かべたマルコに対してボルサリーノもニヤリとして「嘘吐け」と言った。
半獣から完全な不死鳥へと姿を変えたマルコは、上空へと舞い上がるとボルサリーノへと真っ直ぐ突撃する。その一方、ボルサリーノは両手から放つ光の弾丸で反撃した。
ボルサリーノの攻撃は効かないのか、マルコは全く怯むことなくボルサリーノに接近すると同時に人へと姿を変えて強烈な蹴りを放った。ボルサリーノがそれを左腕で受け止める。

「ん〜、これは効くねェ〜」
「嘘吐け!」

マルコはそう吐き捨てるとグッと足に力を入れてボルサリーノをそのまま吹き飛ばした。光の閃光となって弾かれたボルサリーノは勢い良く地面へと激突して土煙の中に姿を消した。

「あ、あれが…、し、白ひげ1番隊隊長の…、不死鳥マルコ!」
「黄猿さんが吹き飛ばされた!!」

海軍兵の動揺が頂点に達したのか悲鳴に近い声を上げて顔を青くした。

「ったく……、相変わらず無茶な戦い方だぜマルコの奴」

マルコの背中を見つめるサッチは溜息混じりに零した。いくら再生するとはいえ攻撃を受ければ当然痛みも伴うのだ。サッチは不死鳥の能力を生かしたマルコの戦い方を快くは思っていない。しかし、この場合はその能力に頼らざるを得ないことも事実だ。
もし、こんな戦い方をするマルコをヤヒロが見ていたら何て言うのだろうとサッチは思った。

『マルコ! 良い根性してんな!』って、言うか、やっぱり。しかも、満面の笑顔で。でも――
『けど、痛ェのは辛いな。再生するからって痛みを伴うなら止めろ。そんな守られ方は好きじゃねェ。マルコの身体が痛ェなら私の心も痛ェからよ』
だな。褒めた後に笑って諌めるな、きっと。と、マルコから視線を外してサッチはクツリと笑った。

「そう簡単には頭は獲らせてもらえないようだねェ……。巨人部隊、空にも注意しなよぉ」

瓦礫から姿を現したボルサリーノは、怪我こそ負ってはいないが、やれやれとばかりに溜息を吐いた。そして、上空にいるマルコを見つめながら後方に待機している巨人族の海兵に注意を促した。それに巨人族の海兵達は笑みを浮かべて「おう」と声を上げて身構えた。

「ったく、海軍も大した人材の宝庫だよい。ヤヒロ、早く来い。でねェと、相当な被害を被ることをおれ達も覚悟しなきゃならねェだろうよい」

海軍がどんな武器、どんな兵士を出して来ようとも、白ひげ海賊団にはとんでもない切り札が後ろに控えているのだ。

「……」

いや、果たして、あれは、切り札…なのだろうか……。
ふとマルコは思った。その時だった。

「お前らァァァ!! 根性出して戦うぞぉぉぉ!!」
「おおおお!!!」
「あったりめェェだァァァァ!!!」
「「「おれ達には! 玉がついてんだァァァァ!!!」」」
「「「えェェェ!? 何その気合の台詞ぅぅぅ!??」」」
「待て。止めろい……」

その台詞は恥だい!
思わずマルコは片手で顔を覆った。

「んー、何だろうねェ……?」

今、白ひげの海賊達が口にした科白は聞き間違いかと思ったボルサリーノだったが、上空にいるマルコの反応からして聞き間違いじゃなかったようだと確信して、白ひげ海賊団の連中は何かに追い立てられているように感じるのは気のせいかねェ?と首を捻った。

「「「今日も楽しく笑顔で戦うぞ!!」」」
「「「えェ!? 何言ってんの!?」」」

ヤヒロの地獄の訓練が身を結んだ結果だ。
どんなに負傷しようが、より好戦的に、より狂暴性を伴って、だけど素敵な笑顔で楽しく戦う。
そんな白ひげ海賊団に海軍達は完全にビビって引いているのは仕方が無いことだ。

「ハハ! やべェな! 面白ェ!!」

彼らを見つめていたエースは思わず楽し気に笑った。片やセンゴクは眉間に皺を寄せて難しい表情を浮かべながら戸惑うばかりで、それはガープにしても同じだった。

「エース……、お前、何を笑う?」
「ジジイ、覚悟しねェとやべェのは海軍だ」
「何じゃと?」
「何をたわけたことを!」

エースの言葉にガープとセンゴクが厳しい目を向ける。しかし、エースは更に続けた。

「白ひげ海賊団は世界最強。おれ達は生半可な覚悟で戦ってねェ。背負ってるもんがその辺の海賊とは違ェんだ」
「ッ…!」

眉間に皺を寄せてエースを睨むガープだが、心に余裕を持つエースの態度にただただ困惑した。一方、視線を湾内へと移したエースは言葉を続けることはしなかった。その代わりに――いつの間にかヤヒロと同じもんを背負ってんだな。あいつらの戦い方も、表情も、どう見たって『夜叉鬼神』じゃねェか。と、心の中で盛大に笑った。

根性見せろ!
生半可な覚悟で戦ってんな!
やるからには最後までやりきれ!
泣いても一生! 笑っても一生!
だったら笑って過ごした方が良いじゃねェか!
どんなことでも、どんな時でも、最後まで笑え!
笑って笑って笑い尽せ!
そしたら自然と人は強くなれんだ!

不思議でも何でもねェさ。
この世界の常識を常識だと思ってねェからかな。
そこに ”ある” と思ってっから殴れるのかもな。
身体を殴るっていうより心を殴ってんだ。
だから掴めるのかもな。だから殴れるのかもな。

特別なんてもんは無ェんだよ。
特別は誰もが特別だ。当たり前のことだ。
だから特別なんてものは無ェんだ。
死ぬな。生きろ。
命に特別は無ェんだから。

「死なねェ!」
「生き抜く!」
「根性見せろ!」
「笑って戦え!」
「「「おれ達は白ひげ海賊団!! 誰一人とて見捨てねェ!! 覚悟しろ海軍!!」」」
「「「ヤヒロ姐さんの生き様を!」」」
「「「おれ達も背負って生きんぞ野郎どもぉぉぉっ!!」」」

白ひげ海賊団の士気が更に上がる。隊員、隊長、白ひげ、囚われたエースでさえも笑みを浮かべて勢いは増すばかりだ。
片や海軍は白ひげ海賊団の勢いに気圧されて動揺と焦りで士気が下がる一方だった。
しかし――

「まったく、あいつら……、勝手に持ち場を離れてしもて……ワシらが出払ったら、誰がここを守るんじゃ!」

三大将の一人である赤犬サカズキがゆっくりと立ち上がりマグマの能力を放った。
空からは炎を纏った弾丸が散らばり勢い良く白ひげ海賊団へと火山弾となって襲い掛かる。

「海軍を舐めくさりよって」

赤犬サカズキが動き出した。

頂上戦争 A

〆栞
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