10/9 23:28  
* 岩泉 *

星も瞬かない秋の夜。秋とはいえ、この時間になっても気温は高いからそれほど寒くないのが救いだ。

「こんな遅い時間になにしてんだよ」

暗闇に紛れて誰にもあわないと思ってたのに、よりにもよってなんで岩泉なんかに会ったのか。

「お前ひでぇ顔してるぞ」
「うるさい」

そんなこと、私が1番知ってる。
こぼれそうな涙を耐えるために、瞬きをしないようにしてたんだから。空でも見上げればいいんだろうけど、生憎星なんて少しも見えやしない。

「何してたんだよ」
「塾だったんだよ」
「それにしても限度があるべや」

成績がふるわない。私だけが努力してるわけではないから、そう簡単に結果がでないこともわかってる。それなのに、私の努力は努力じゃないと言わんばかりに成績は落ちていく。足掻けば足掻くほど周りと差が生まれる。
少しでもその差を埋めたいと思って何が悪い。そのためにできることをして何が悪い。

「ほら、さっさと帰るぞ」
「1人で帰れる」
「いいから黙って送られてろ」

有無も言わさず歩き始めた岩泉の後ろ姿をただ眺めた。歩き出さなかったのは、わずかばかりの抵抗だったのかもわからない。

「あー、ほら」

遠慮がちに捕まれた腕を緩く、それでいて力強く引っ張るものだから仕方なしに足が動き始める。逆の腕を引かれてたら、痛みで跳ねてたかもしれない。

「頑張ることと無理することは違ぇべ」
「ムリなんてしてない」
「なら自分で歩け」
「岩泉がいなければ歩いて帰ってた」
「そーかよ」

いや、どうだろう…歩いてたな。こんなの偶然会った岩泉に甘えてるだけだ。甘えてすがってるだけ。それのなんて醜く浅ましいことか。

「岩泉、いい。離して」
「離さねぇって言ってるべ」
「言ってないよ」
「細かいこと気にすんな」

細かくない。
だけどそんなことどうでもよくなるほど、岩泉の手の熱が私の肌を焼く。

「お前はなんでもかんでも頑張りすぎなんだよ。及川くらい適当にやっとけ」
「及川くそストイックじゃん」
「女がくそとか言うなや」

及川ほど頑張ってもいないけど。だから私は成果が出ない。だから私が悪い。わかってるのに、理不尽なストレスが弾けようとする。それを押さえようとすればするほど私の心は生き場所をなくして、迷子の子供みたいに泣き叫びたくなる。

「いいから歩け」
「うん」

頑張って抑えるから。どうか振り向かないで。





10/1 23:13  
* 黒尾 *

[今日は赤ワインをご用意ください]

そんな通知が入って、滅入っていた気持ちが晴れた。

半強制的な休日出勤に合わせるかのようにやって来た大型の台風。気圧やらなんやらのおかげで気分も体調も最悪。そんな時に舞い込んだこのお知らせは私の気分をあげるに十分だった。

すぐに帰るとメッセージを飛ばして、止まると予告された時間より早く電車に飛び乗った。…間に合わなくて一本見送ったけど。
閉店間際の駅中でワインを買って帰れば、しっかり煮込まれたビーフシチューにエビのアヒージョ、それから鳥羽中の塩焼きが出てきた。

「火通ってるか見て」
「はーい」

先に食べてていいと言われて、素直にワインと共にアヒージョを摘まんでいた私は、またもや素直に鳥羽中にかじりついた。
適度な塩梅に香る黒胡椒。最高の一言に限る。

「ちゃんと通ってるな」
「うん」
「牛スジ固かったらごめんな」

どうやらビーフシチューは牛スジを使ったらしい。
しかしてっちゃんの不安なんてどこへやら。牛スジはこれまたしっかり煮込まれて、固いどころか柔らかくていつまでも食べていたいくらいだ。

「てっちゃん、これおいしい」
「ならよかった」

このところ仕事が片付かなくて、晩ご飯のほとんどをてっちゃんが用意してくれてる。申し訳ないと思うけど、てっちゃんのご飯がおいしいからつい甘えちゃうんだよね。

「明日はご飯作るね」
「仕事は」
「頑張って終わらせる」
「そう言ってどれくらい経つよ」

それを言われると耳がいたい。
かれこれ2ヶ月以上仕事が全く片付かないのは事実だ。しかもそれは後から後から増え続けてると言うどうしようもない状況。

「飯のことは気にしなくていいから、明日も無事に帰ってこい」

ぽふりと撫でられて、自然と口が緩んでしまった。
ああ、思ったよりワインがきいてるなぁと思いながら、私は素直に返事を返した。




9/27 20:12  
* 月島 *

「さすがお兄ちゃんわかってる!」
「灯佳里よりも長く蛍のことを見てるからな!」
「でも私だってお兄ちゃんが知らない今の蛍を知ってるんだから!」
「お、なんかあったのか?」
「身長が190に届きましたー!」
「おおー!ついにか!」
「なにやってんの?」
「あんなに身長あるのにかわいいなんて…!」
「ねぇ…」
「蛍が尊い…!」
「かわいいの暴力…!」
「チョット!!」
「お、帰ったか」
「おかえり蛍ちゃん」
「ただいま…じゃなくて、兄ちゃんなにしてるの?明日仕事じゃないの?」
「蛍の誕生日だから帰って来た!」
「返事になってない」
「お兄ちゃん明日お仕事うちから行くって!」
「…あっそ」
「あのねあのね!お兄ちゃん蛍の好きなイチゴのケーキ買ってきてくれたよ!」
「プレゼントもあるからな」
「僕じゃなくて彼女に使ったら?」
「それが彼女できなくてな」
「お兄ちゃんこんなにかっこいいのにね」
「(ブラコンだからだと思う)」
「あ!もちろん蛍も最高にかっこいいよ!」
「はいはい」
「風呂入ってこいよ。母さんがご馳走用意してるぞー」
「…はぁ」
「あ!なにそのため息!」
「部活で疲れたのに今からも疲れるのかと思ったら仕方ないでしょ」
「ふふーん。お風呂から出たらもみくちゃにしてあげるから、今のうちにゆっくりしておいで」


(このあと二人で全力で蛍のこと撫でまくった)




9/26 09:58  
* 澤村 *

「おい」
「どうかした?」
「顔色悪いけど、ちゃんと寝てるのか?」
「寝てはいるんだけど…」
「眠れてないのか?」
「そんな感じ」
「無理するなよ」
「倒れる前に保健室行くね」
「そうじゃなくて」
「じゃあね」

「…どうした?大地フラれた?」
「うるさい」




9/24 20:15  
* 赤葦 *

「今日、中秋の名月だって」
「へぇ」
「ニュースで見た」

ふと空を見上げれば、雲間から見える月がやけに眩しく見えた。

「そんなに月好きだったっけ?」
「うーん、綺麗なものは好きかなぁ」

いとおしいものを見るようなその目が、憎らしかった。

「たしかに綺麗だね」

たった数回しか会ってない後輩に心奪われた君なんて、見たくなかった。



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