シオンが檻に入れられてリッカに出会ってから、数日が過ぎた。
宇宙人たちは相変わらず不気味だったが、シオンとリッカに危害を加えるつもりはなさそうだった。
寝室にいる間に檻の中が掃除されていたり、朝昼晩でそこそこ豪勢な食事が出る。たまに別室に連れていかれて、何がしかの身体のデータを取られる。少しでも具合が悪い時は即座に治療が受けられる。なかなか良い待遇だった。保護と繁殖が目的だからだろうか?
しかし、見知らぬ巨大な生き物に常時見張られているのはストレスがたまる。シオンは抜け出せないか探ってみるが、檻は頑丈でどうにもならない。宇宙人を攻撃して隙をついて逃げ出すことも考えたが、身体が大きくて群れている生き物に勝てる算段はない。
何とか耐え抜けるのはリッカという同じ境遇の男性がいるからだろう、とシオンは思う。ひょっとしたらこれから先、年単位でずっと一緒にいるかもしれないけれど、優しくて穏やかなリッカと一緒ならそう悪くはない気がする。
その日の夜、寝室で寝具にくるまりながら色々な話をした。
「君は遠い国から来たんだね。僕はこことよく似た違う施設の生まれなんだ」
「じゃあ、生まれた時からあいつらに見張られてるんですか?」
「そう。でも今まで何かされたことはないよ」
リッカは施設の中で保護と繁殖の末に生まれてきた生物だった。しかしシオンよりも年上の年齢まで無事でいられたのだから、本当に宇宙人は何もしてこないのだろう。ただ、不気味な生き物に飼われているというだけ。シオンは複雑な気持ちの中、背筋を震わせた。
「父さんと母さんと弟妹がいて……でも僕が大きくなって……繁殖できるようになったから、ここに連れてこられたんだ」
リッカは悲しそうな顔をした。リッカは宇宙人から女性だと思われている。家族と引き離されて、繁殖のためだけに知らない男と無理矢理一緒住まわされるなんて可哀想。シオンは強く唇を噛んだ。
「……でも一緒に住むのがシオンくんで良かった」
リッカはぽつりと呟いた。シオンにはどういう意味かよく分からない。でも、何だか心がふわふわして、落ち着かない気持ちになる。
「お、俺も! ここは怖いけど、リッカさんが一緒で良かった……です」
かろうじてそう答えた。リッカが薄く微笑んだ。どく、と胸が熱くなる。シオンはどきどきして、リッカの顔をまっすぐ見られない。この気持ちが何なのかもわからない。うつむいて……ずっと普段から思っていたことを言った。
「あの、えっと、ぎゅってしてほしいです……どうしても、不安で」
「……いいよ、おいで」
だめで元々だったが、リッカは少し考え込んで……横になったまま、大きく腕を広げた。シオンはおずおずと寝返りを打ってその中に飛び込んだ。胸に頭をこすりつける。温かい。いい匂いがする。
リッカの容姿は女性的だが、骨格ははっきりと男性のそれだった。腕は細い。でも腰からふくらはぎにかけてはしっかりしている。シオンがリッカについて知っている事はそれだけ。でも、それだけのことが無性に嬉しかった。
リッカの心臓の音がした。規則正しい鼓動だ。寝具にくるまって、綺麗なお兄さんとぴったりくっついている。そう考えるとシオンはたまらなくなった。もぞもぞと腰を動かす。
「エッチなこと……の真似、しませんか?」
「え、でも、おとといしたばっかりだから……しばらく大丈夫なんじゃないかな……」
「頑張れば、早く出られるかもしれません。俺、ここから出たいです。家族が心配ですし……」
「そう……そうだよね…………」
この檻の中から早く抜け出したい。故郷の家族に会いたい。無性にむらむらして、目の前の優しくて綺麗なお兄さんで性欲を発散したい。男性なのに、お兄さんなのに、母親に抱きしめられているような安心感……胸の奥のふわふわとした淡いもの。それら全部がごちゃまぜにされた。
ただシオンは夢中でリッカにすがりついた。リッカが今にも泣きだしそうな顔をしている事には、気が付かない。
その日から、ほんの少しだけシオンとリッカの関係は変わった。