長い夢を見ていたような気がする。

 ふと、シオンが目を覚ますと、そこは全く知らない場所だった。母親や兄弟と一緒に暮らしていた緑豊かでのどかな風景とはかけ離れた、頑丈な檻の中。
 必死に記憶をたどる。確か、成人して家を出ることになったから引っ越しの準備をしていた時に……何かに捕まって、急に眠くなって力が入らなくなった。そこから記憶が全くない。

 こわごわと檻から外を見る。自分よりはるかに大きな体格の見慣れぬ生き物が、シオンを見ていた。ぞっとして、すぐに木の陰に身を隠す。どうして。どうしてこんなことに……色々と考えに考えて、シオンはとんでもない結論を導き出す。
 ひょっとしたらあの恐ろしい生き物は、宇宙人なのではないか。俺は宇宙人に捕まって、実験台にされている。そうではないと説明がつかない。
 木の陰から宇宙人の様子を伺う。宇宙人は仲間を呼んだ。奴らは板のようなものやよく分からない機械を持っていて、こちらを見ていた。まだ暖かい季節なのに、シオンの背筋に悪寒が走る。無理。こわい。
 どうにかしてここから逃げられないだろうか。とはいえまだ少し眠い。お腹も減った。まずはシオンはこの檻の中を探ってみることにした。


 前に暮らしていた所に比べると、とにかく狭い。最低限の衣食住は整えられているものの、息苦しい。恐ろしい事に隣にも檻があって、他の奴らが捕まっているのが見えた。俺だけではないのだ。シオンは震えながら壁沿いに歩いて抜け道を探した。
 と、奥の方に小さな扉がある。覗いてみると……中で誰かが横になっていた。灰色の髪の毛をした綺麗な男性だ。小柄で、女の子みたいな顔をしている。シオンより、少しだけ年上のようだった。
 横になってのんびりとしている。ふと、目があった。

「大丈夫? もう少し横になっていた方がいいよ」
「あ、あの……ここは、一体……」
「あのね、信じられないかもしれないけれど、僕たちは個体数がものすごく少なくなっている。保護と繁殖の為にここで飼われているんだ」

 やっぱり宇宙人だ。侵略してきたくせに……種の保存と多様性・保護の重要性に気付いて、こんな滑稽なことをしているのだ……ん? 保護はともかく、繁殖?

「繁殖? 俺とお兄さんの他に誰かいるの?」
「ううん。僕はどうも女の子だと思われているらしい。僕と君で子どもを作れってことだろう」
「え? でもお兄さんも俺も男じゃん。男同士じゃ子どもはできないよ」
「そうなんだよ……でも、そういうことをしないといけないみたいで……」
「は、はあああああ!?」

 いきなり捕まって変な所に閉じ込められてて、一緒に捕まっている男性はマトモで優しいけど、男同士で子どもを作るために性行為をしないといけない。シオンは頭がどうにかなりそうだった。 

「待って、待って。いきなりそんなこと言われても!」
「そりゃそうだよね。でも、僕たちの行動は全て監視されている。部屋の隅を見てごらん。あの機械で全部見られているんだ」

 シオンは顔を上げて天井を見た。見慣れない機械が動いて、シオンと灰髪の青年が動くたびに追視してくる。いよいよ震えが止まらない。

「ねえ……なんで、なんでこんなことになっちゃったの……」
「……怖いよね。でも大丈夫、いい作戦があるんだ。性行為の真似をして、あの機械にわざと見せよう。何回かしても子どもができなかったら、パートナーの交換の為に外に出られるだろう。それまでの辛抱だ」

 泣き出しそうなシオンの背中を撫でて、耳元で作戦を囁いた。それは名案。シオンはその作戦に乗る事にした。外に出られた時に何とか隙を伺って逃げ出す算段を取り付けて、シオンは青年と握手をした。灰髪の青年は凛々しい見た目をしているが、とても優しくていい人だ。

「分かりました。お兄さん……ええっと、お名前は?」
「僕はリッカ。君は首輪に名前が書いてあるけど、シオンくんでいいかな?」

 シオンは慌てて首元に手を伸ばす。ご丁寧に首輪にタグまで付けられていた。こんなの耐えられない。一刻も早く外に出るべく、性行為の真似をすることになった。



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