引田ロング様の作品「俺があんたに負けるわけがない!」の二次創作です。本編はこちら、設定などはこちらです。
ポリネシアンセックス・寸止め・射精管理・貞操帯の描写・乳首責め・女装・えろ下着などがあります。



 その日、花澤薫(はなざわかおる)がスーツケースを持って秋月勇人(あきづきはやと)の家にやってきた。かなりの大荷物である。勇人はそれを見て少しため息をついて、中に入るように促す。
 大画面のテレビを臨むリビング。ぽつりぽつりと話し始めた薫の顔は暗い。

「上階の水道管が漏水したみたいで……家に帰ったら部屋が水浸しになってた……」
「それは大変だ……」
「ボクのあんなものやこんなものが……」

 何なのか。勇人は気になるけれど聞かないようにした。おそらく薫はその手の話を始めたら長くなるタイプだからだ。

「俺の家でよければ、元通りになるまで泊まっていいよ。昼は寝てるし夜は仕事行くけど」
「じゃあ、食費とかお金は払うから、とりあえず二週間泊まっていい?」

 ミルクティーベージュの髪の毛が揺れる。きらきらとした涙目でお願いをする薫は、反則なほどに可愛らしかった。勇人の脳内の柔道の審判が、技あり判定を下す。このままだと寝技に持ち込まれて一本取られる。なぜ柔道なのかは謎だ。

「うん……工事とかあるだろうし、元に戻るまでいいよ」
「嬉しい……! 本当にありがとう」

 あどけない天使のような顔でお礼を言われた。可愛い。でも男。ちんちんついてる。グッと色々なものをこらえて勇人は物置にしている空き部屋を片付けに立ち上がる。
 そんなこんなで二週間限定の同居が始まった。最初の三日は大人しくしていた薫だったが、四日目からはエッチのお誘い。理由はずっと一緒にいるとムラムラするから。勇人も気持ちいいからいいやと流されつつ、時間が合う時に性行為をしていた。
 そしてその日はやってきた。

「ポリネシアンセックス……?」

 勇人が家に帰ってきて、さあ寝るぞという時。パジャマ姿の薫がいきなり変なことを言いだした。初めて聞く単語だった。勇人は脳内の辞書をめくって、とりあえず中学校の頃に歴史の時間で習った、四大文明を思い浮かべた。悠久の歴史の中で流れるでかい川……メソポタミア文明……目には目ん玉、歯には歯ん……歯?

「そう、ポリネシアンセックス。太平洋の、ミッドウェー諸島・イースター島・あと何か忘れたけどその辺を結んだ三角形の中にある諸島に伝わる性行為の技法さ! かの有名な……ぺらぺらぺら……精神的なつながりを重視して……ぺらぺら……男性のオーガズムが長続き……ぺらぺら……最近のおつまみはサラミ……それに……焼酎……そういうことだよ!」
「いつになくしゃべる!」

 そのうえ何だか全然関係ない単語が入っていたけれど、面倒なので勇人は聞き流した。よく分からないのでもう一度説明してもらった。まとめた。

「つまり……じっくりエッチする事」
「そう」
「十一文字で終わった! 最初からそれでいいじゃん!」
「いや、他にも色々書いてあるから、このインターネット辞書のページを読んで」
「うん……ああっ、すごく丁寧に募金を要求するページに飛んだ!」

 わちゃわちゃしながらもとりあえずやってみようということになった。二人でわいわい言いながらインターネットで検索して手順をまとめた。

・合計五日間かけてエッチをする
・そのうち四日は性器以外の愛撫のみ
・四日間は挿入もなし、性器も絶対触らない
・毎日の愛撫も一時間以上かける
・最後の一日で挿入する
・挿入して三十分は動かない

「うわぁ……でも五日もかけてエッチするなんて、仕事大丈夫?」
「三〜五日目に有休をとったから安心だよ!」
「世界一無駄な有休の使い方! それなら、遊びに行きたかった……何だよ、ポリネシアンセックスって〜!」

 勇人は頭をかかえる。薫は得意げな表情。おっとりとしていて優しいのに妙に強引な所があるので、あっという間にそういうことになった。


「んっ、ん、んぅ……ん、んっ、ぁ……ん」


 気が付けばリビングのテーブルのところでキスをしていた。付けられたままの大画面のテレビでは、動画配信サービスのトップ画面が延々とスクリーンセーバを流していた。映し出される風景をバックに、ちゅっ、ちゅっとキスをしあう。
 抱きしめられて、勇人の腰が優しく撫でられた。それだけでぞくぞくする。ちゅく、ちゅく、と舌を絡めながら、お尻の柔らかな肉を揉まれる。
 割れ目にそって、家着のスウェットの上から撫でられる。それだけで、粘膜がひくつく。早く入れてほしいと体が要求しているのに、今日は一日目。性器に触れないままあと五日は我慢しなくてはならないのだ。

「あっ、あ……そういえば性器って後ろも?」
「こんなにぐちょぐちょにして性器じゃないっていうのは無理があるよね?」

 薫の指がそっと布越しに襞を撫でる。それだけでもうたまらない。抱きつきながら薫の胸に髪の毛をこすりつけてお願いをする。

「ね、無理ぃ……もう入れて」
「だーめ」

 薫は綺麗な顔に嗜虐的な笑みを浮かべた。それは小さな生き物をいたぶる猫のよう。一日目は一時間ずっと身体をまさぐられ続けた。服の上から焦らすようにして。さわ、さわ、と優しく。勇人は息も絶え絶え。甘えるようにしてお願いをする。

「はっ、はっ……無理。あと四日は、長い……」
「あと四日したらハメてあげるから、ちゃんと我慢するんだよ?」
「でも……」
「途中で触ったら、初めからやり直しにするからね」

 薫がにっこりと微笑む。でも目の奥で妖しげな鋭い光を放っていた。
 勇人は少しだけうつむいて……我慢できなくて、腰を動かして膨らんだ性器をこすりつけて、もじもじとおねだりをする。
 しかし、薫は何もしなかった。立ち上がって「おやすみ」と声をかけて、洗面所へ向かってしまう。
 リビングに取り残された勇人は、熱を持て余していた。薫に貸している部屋のドアを見る。今すぐ部屋に入って布団にもぐりこみたくなった。でも、そんな事ができるはずもない。
 悶々とした気持ちになりながらも、勇人は色々と考える。そしてとんでもない結論に行きついた。

 これはひょっとして勝負なのではないか。

 あと四日間、性器を触らずに耐え抜けば俺の勝ちなのでは? 我慢出来なくていじってしまったら、薫の勝ち。あと、薫が先にエッチしたくなったら俺の勝ち!
 そうだ、そういうことなのだ。股間? 沽券? そもそも沽券って何のチケット? とりあえずなんかそのへんに関わる。一度も勝った覚えはないが、負けるわけにはいかない。負けっぱなしなんて、悔しいからだ。勝手な戦いの火ぶたがここに切られた。
 勇人はムラムラしながら、スマホで通販サイトを開いて高速で商品を注文して……前を大きく膨らませたまま、何とか頑張って寝た。


 朝。勇人が目を覚ますと、薫は会社に出勤していた。テーブルの上にお皿。中には作ってくれたと思われるハムエッグが入っていた。市販のサラダだろうか、カラフルな野菜とミニトマトが添えられている。
 部屋を借りているから、と言って薫は色々な家事をしてくれる。とはいえ、プロの料理人やハウスキーパーではないので、成人男性のできる範囲。
 洗濯をして、軽く掃除。ごみ出し。このハムエッグとサラダのように、市販品とうまく組み合わせて簡単に料理をする。

 ……彼女みたい。

 勇人は一瞬そんな事を考えて、すぐに取り消した。そういうのじゃない。ただ、住宅トラブルが起きたから元に戻るまで部屋を貸しているだけ。絶対、そういうのじゃない!
 勇人はなぜだかもやもやとした。それが何か分からない。でも、分かったらいけないような気がした。だから、落ち着かないまま身支度をして、キッチンの棚を開けた。買ってきてくれたのか、パンとお湯を入れるだけでできるコーンスープがあった。それとハムエッグをありがたくいただく。
 お腹いっぱいになってしばらくぼんやりしていると、チャイムが鳴った。インターホンを確認すると、宅配業者。慌てて玄関に向かって荷物を受け取って……勇人は勝利を確信し、にやりと笑った。




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