鏡の破片のような鋭さを持った光が、高校の教室の窓から差し込む。その日差しは強いが、ぎらぎらとした夏の太陽のものとは眩しさの種類が全く違う。秋の陽光は、淡く揺らぐようにして放課後の教室に入り込み影を作っていく。
 机、いす、ロッカーに教卓。そして教室に残っている二人の男子生徒の影が、長く伸びる。
 一人は眼鏡をかけた黒髪の真面目そうな男子。もう一人は明るめの茶髪に着崩した制服の不真面目そうな男子。何とも対照的な二人だった。仲が良さそうには見えない。
 茶髪の男子はスマホをいじって画面を見せる。そこには、隠れてクラスメイトとキスをする眼鏡の男子が映っていた。

「まさかいつも真面目な生徒会長がさ〜、こんなことしてるとは思わないよな。おもしれぇからみんなに言っちゃおうかなぁ」
「矢部くん、やめてくれ! 何でもするから……画像を消してほしい」

 黒髪で眼鏡の生徒会長は、うなだれて震えながら小さな声で言った。矢部と呼ばれた茶髪の男子は、ニヤニヤと下衆な笑みを浮かべる。

「ふーん、じゃあなんかムラムラしてきたからしゃぶってよ」

 矢部は行儀悪く机に座って、ジッパーを開けて性器を取り出した。生徒会長は首を小さく振って、震えていたが……やがて床に座り込んで顔をあげた。

「約束だ、絶対に画像は消してくれ……」
「はいはい」

 矢部が生徒会長の黒髪を強く掴んだ。自慰に使う道具のような扱われ方。生徒会長の目が潤む。秋の日差しで眼鏡のレンズが光る。しかし、写真をばらまかれたくないのだろう。頬を真っ赤に染めて泣きながらひざまずいて、性器に手を添えて息を吹きかけて大きく口を開ける……。
 と、その時! 秋の陽が差し込む茜色の窓ガラスがブチ破られ、勢いよく何者かが室内に飛び込んできた!

「おっほぉおんっ! プリーズファックミ――――――ッ!(訳:待ちたまえ、君たち!)」

 子ども向け番組でよく見るような、戦隊ものの戦士のような格好をした男性だった。しっかりと赤色のマスクで隠れていて素顔は見えない。だが戦隊ものにしては服装がおかしい。胸の所にハートマークの穴が開いていて乳首がぴょこんと出ているし、下半身もなぜか性器の所とお尻の穴の所に穴が開いていて色々とはみだしている。そしてよく見たら縄で亀甲縛りをされている。一言で言うと変態だった。
 思わず二人は目を丸くして顔を見合わせる。少しして身体が震え、声が絞り出される。

「な、なんだテメェ! おいこれ、不法侵入になるんじゃねぇか?」
「僕は先生を呼んでくるから、矢部くんは警察に通報してほしい。器物破損および公然わいせつだ!」
「おっと、君たちそんな現実的な単語を持ち出してくるのはやめたまえ。それより、さっきから見ていれば……典型的な寝取られ物の導入シーンじゃないか! 同級生を画像で脅して好き勝手しようなんて、言語道断!」

 窓ガラスを割っていきなり入ってきていきなり説教する方が言語道断じゃないか? 二人はそう思ったが、日常生活で見かけることのない変態に圧倒されて何も言えなかった。

「私は寝取られを絶対阻止する正義の味方。誰が呼んだか、ネトラレンジャー!」
「あ、もしもし。警察ですか?」
「通報も阻止! かーっ、人の弱みは撮影するし通報するしロクなことしない! こんな悪いスマホ、いらねぇよ!」

 変態は矢部からスマホを奪うとバッキバキに折ってしまった。クラスメイトとのキスシーンの画像が消えて生徒会長は少しほっとしたが、矢部はたまったものではない。

「おいこら! このスマホまだ分割払い中で……」
「だまらっしゃい! 自己紹介中に攻撃するからだよ。変身ヒーローもののお約束を破るチャラ男にはおしおき! おしおき! たっぷりおしおき!」
「や、矢部くん……!」
「おっと、君も通報したり人を呼んだら分かってるね? 草の根分けても探し出して、メチャクチャ犯す!」

 犯したら正義の味方ではなくただの強姦魔なのではないか。生徒会長はそう思ったが、怖くなった。本当にレイプされかねない。これは夢。矢部に脅されたあたりから夢。僕は目が覚めたら塾の机で居眠りをしていて、今から授業を受けるんだ……生徒会長は首をブンブンと縦に振って現実逃避をした。

「生徒会長くんには記憶が消えるうえに眠くなるスプレーぶっかけて、ロッカーにポイ! はぁはぁ、やっと二人っきりになったね……」
「うっわ、キモイ。こいつメッチャやばい! こっち来るな!」

 後ずさりする矢部。近寄ってくる変態。矢部は教室の隅に追い詰められてしまった。壁に押しつけられて、首元に息を吹きかけられる。矢部は身の危険を感じた。抵抗するが、変態のくせに思いのほか力が強い。全くダメージを与えられない。
 ああ、このままじゃ俺……ヤリチンなのにガチボコに犯されてメス堕ちしちゃうんだ……そんなエロ同人みたいなことを考えている矢部に、変態は囁いた。


「ふふふ……かよわいケツ穴で悪に立ち向かう、全身性感帯とは私の事だ! チャラ男くん、そんなに性欲が有り余っているなら……私で発散しなさい!」




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