遡河魚生け捕り生食計画
▼第三話 



相変わらず真っ暗な部屋の中、月明かりだけが頼りのそんな環境で、ディートリヒは悶えていた。

「あ、あ、っ……ダメ、だ……もう……」
「んー?なにが、だめ?」

悲鳴のような声が響くも、囁くように耳元で喋るイェルンは、止める気など毛頭無いようだ。ディートリヒの腕を拘束しながら互いのペニスを擦り付ける形で身体を擦り付けている。かれこれ半刻ほど、イェルンはそれを続けていた。

気持ちが良い、しかし決定的な刺激は避けて意図的に行われるそれは、見事にディートリヒを追い詰めている。元より快楽に触れる機会なとそれほど無かったディートリヒには、この生温くてズルズルと快感を引き出してくるこの状況は辛いものであった。イキたくてもイけない。そんな中で、彼の思考はドロドロに溶け始めていた。何もかもを放り投げて、快感を求めそうになる。元よりイレギュラーに弱いディートリヒの事、彼はそんな所まできてしまっていた。

一方のイェルンだが、彼は元々の完璧過ぎる容姿と才能から、男も女も入れ食い状態で、やんちゃだった時代からそういった色事には滅法強い。射精管理だってSMだってお手の物で、得たい情報の為に相手をドロドロにして聞き出すなんて彼にとっては朝飯前だった。ただ、これは相手が少なからずイェルンに気がある時が多くて。逆にディートリヒのような、彼に全く気もない脈も無い相手に試みるのは初めてであったりする。

だからこそ、イェルンはいつになく興奮していた。全く自分の事を話さない仕事人。恐らくディートリヒは何処かで囲われていた暗殺部隊か何かの実行部隊にいた、とイェルンは読んでいる。そうでなければ、あのような明らかに堅気ではない人間達から追われ、しかも逃げ果せてしまうなんて芸当は出来ないだろう。だから、余計に燃える。

イェルンの人生は、苦なども危険などもない、謂わば楽勝な人生であった。胸糞悪いことはあるにはあったが、それ程血生臭いものではない。その程度だ。そんな完璧な彼の元へと突如舞い込んできた異質に、彼は胸を高鳴らせている。隠したくても隠しきれない興味関心。勿論それだけではないが、この、自分からも逃げ果せようとしているこの男を籠絡できたら、一体どんなに楽しいだろう。この男の内側を暴けたなら、それはどれほど快感だろうか。イェルンは最早、正常では無い思考でディートリヒを追い詰める事に精を出す。この男がみっともなく追い縋ろうとする様を考えただけでイケそうだなんて、流石に変態すぎる。酔っているのだろうか、とイェルンは思考を元に戻すのだった。

「ッああ、もうッ、や、だ……!」

そう切羽詰まった声が聞こえたかと思えば、ディートリヒは仰反るように頭を振って、ジワジワと続く快感を逃そうとしていた。両腕は封じられ、身体を密着されていて、逃げ場は何処にもない。バタバタと彼の両脚がイェルンの身体に擦り付けられ、悶えるように蠢いている。そんな様子を見ながら、イェルンは隠す事なくその顔に愉悦を浮かべる。そして、耳元で囁く。

「イきたい?ディートリヒ」
「ッふぅ……ッ!」

それだけで快楽を拾うのか、彼は背筋をブルリと震わせる。きっと、絶頂までもうすぐなのだろう。しかし、決定的な何かが足りない。それを彼は待ち望んでいる。だがイェルンは、ここで動きをピタリと止めた。

「ッーー、」

途端、咎めるかのようにディートリヒがイェルンの顔を見るのだが、それこそイェルンの求めるものだった。彼は、ディートリヒの口から言わせたいのだ。

「言ってよ。ちゃんと。僕、意地悪だからさ、ディートリヒの口からちゃんと詳細に言ってくれないと出来ないんだ」

興奮しきったギラギラとした目で、イェルンはディートリヒに告げた。それを聞いたディートリヒの表情はと言えば、真っ赤に染め上げた顔で、だらし無く口を開けっ放しに、情け無くも眉尻を下げ、困惑と絶望感溢れる表情でイェルンを見上げている。薄い紫の目を涙で濡らしながらそんな顔をするものだから。イェルンは危うくイきかけた。それを何とか根性で抑え込みつつ、彼は再び囁く。それはそれは楽しそうに、そして嬉しそうに。

「イきたいでしょ?僕もイきたいんだからさ、早く、言ってよ」

目を泳がせながら分かりやすく困惑し動揺するディートリヒに、イェルンは益々笑みを深める。ここ数日で分かった事だが、彼は命令のように言えば逆らわない。それを普段から容易く利用する気にはならないけれども、今日のようなベッドの中で、惜しげもなく使いたいとイェルンは思うのだ。それで従われたら絶対興奮する、と。

「ィ、きたーー」
「んん?何?」
「ーーイきたいッ!頼む、お願いだから、動くか、挿れるかしてくれッ」

半ば悲鳴のように叫ばれて、イェルンはゾクゾクと背筋を震わす。想像していた以上に、良かった。

「ははッーーイイね、それ!」

そう言ったイェルンの行動は早かった。身体を起こすと、お互いの先走りでドロドロになったペニスを、ディートリヒの入り口に擦り付ける。余程期待しているのか、それだけでディートリヒの中がヒクつくのがイェルンにも分かった。ようやく、望むものが得られる。その時のディートリヒの顔と言ったら、なかった。

「ンンーーッ!?」
「ふッ……、んんッ」

イェルンはその表情を目撃してしまった衝動のままに、一気に昂ったものを中へと突き立ててしまった。ずっと待ち望んでいた刺激に、ディートリヒは貫かれるのと同時に絶頂へ達してしまっていた。彼のペニスから飛んだ精液が胸元だけでなく顔の方にまで達していて、それがまたイェルンの興奮を誘う。
そんなイェルンもまた、ディートリヒが達した事による締め付けと、それによる興奮から、遅れながら達してしまう。奥の方へ何度も何度も、精液を擦り付けるように自分のペニスを叩き付ける。未だ絶頂の余韻でビクビクと震えるディートリヒは、擦り付ける動きにすら震えた。それを満足気に眺めるイェルンは、舌舐めずりをした。

「あーー、良い、ね、コレ。ディートリヒ、中ぐちゃぐちゃしてる」
「ッんむ」

ディートリヒの耳元で感じ入った声を上げながら、イェルンは再度口付ける。何故だかそうしたい気分で、その舌を引っ張り出しながら自分のものを絡み合わせた。その間もディートリヒはされるがままで、いっそ自分からも絡み付けてくる。未だぼんやりとした表情で、いつもの張り詰めたような表情からは想像できない。すっかり気を抜いた表情だ。快楽に全然慣れていなくて、こんな彼を見た事のある者は他に居ないのであろう、なんて考えると嗜虐心がむくりと頭を擡げる。こうなってしまったら、イェルンは止まらない。

ディートリヒの中で、先程果てたばかりのものが復活を遂げる。未だに繋がったままなのでそれをディートリヒも感じたのだろう、一瞬ハッとしたかと思えば途端に眉根を寄せた。口は塞がれているので視線で語る。まだやるのか、と。

この男は、表情からその感情を読み取るのが難しい。そういう風に躾けられてきたのだろうけれど、その反動でか、目は雄弁にイェルンに語り掛けてくる。

「はぁ……僕、ダメ、もう止まんない」

完全に興奮しきってしまっているイェルンが、鼻と鼻がつきそうな程の至近距離でいやらしくそう言えば。目の前の薄紫は、大きく見開かれた。

「ま、待てーーッんあぁ!」

先程までのゆっくりとした律動とは違う、本気で中を掻き回すような動きにディートリヒは声を抑え切れない。何度も何度も、イイ所ばかりを狙って擦る。時折ぐるりと中を掻き回すような動作を入れれば、甲高い声で鳴いた。

「ひ、ぃ、ッう、あ、ああッーー!」
「ああーーッ、イイ、……コレ、無理、我慢できない」

逃げられないように、イェルンはディートリヒの腰をガッチリと両手で掴みながら自分のものを叩き付けていく。そうすると、奥の方まで届いてナカ全体が蠢いているのも感じとれた。
ディートリヒはと言えば、それがお気に召さないのか、ビクビクと震えながらもイェルンの手を外そうと躍起になっているようだ。感じ入りながらも、イェルンの指を一本一本外してこようとするその根性には関心すら覚える。だが、そんな事をされてはイェルンも黙っては居られない。何よりせっかくのセックスに集中できない。

とここで、意地悪イェルンの真骨頂が発揮される。

「ーーんあ?」

ふとイェルンがその動きを止めたかと思うと、ディートリヒの片足を持ち上げて繋がったままぐるんと体位を背位へと変えさせた。その手際の良さにディートリヒが一瞬唖然とするのだが、イェルンがそれを待つ事はない。その状態のまま、イェルンは背後からディートリヒの両腕を己の手で拘束すると。上半身を引っ張り上げた状態で、再び激し目な律動を再開させたのだった。

「あッ、それ、んッ、いあぁぁぁ!」
「はぁ、こっちのが、奥まで入る……」

背後から拘束され突かれたのでは、最早ディートリヒにはどうする事も出来ない。ずっぽりとイェルンのペニスを受け入れたアナルからは、ぐちゅぐちゅと掻き混ぜるようなはしたない水音が漏れ出る。イェルンの言うように、ペニスが奥の方までまで届くのか、悲鳴のような嬌声は一段と大きく響いている。顔が見えないのが残念だ、とイェルンは思えども、これだけ感じていれば顔も蕩け切っているだろう、と想像してはよりいっそう滾らせるのだった。

「ひぃ、あああッ、んんッ!も、ムリッ、だっ、あ、うぅぅ」
「まだまだ、ディートリヒはイけるよねっ、体力ありそうだし」

結局、ディートリヒが気絶するまでセックスは続く事になった。この日、ディートリヒのイェルンに対するイメージが二つ加わった。
絶倫野郎とサディストである。

「アンタとはもうヤらない!」
「え?何で?気持ちかったでしょ?とろっとろの顔してたし」
「ッ、だからだ!あんな前後不覚になるまでヤられたら危ないだろう、俺は追われてるって言ったろ」
「えええー……ケチ」

セックスの翌日早々に、ディートリヒがそんな話をするも、イェルンにそれを守る気など更々ない。結局はイェルンの押しやら策やらに負けてしまい、週に何回かは致す事になるまで、あと数日。



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