ちょろいキャプテン総受け

後輩二人×ちょろいキャプテン1


「なんで俺の隣お前らなん!」

 すでに筋肉痛がやって来ている合宿初日の夜、俺は布団の配置に物申していた。

「でかい奴と小さい奴交互にせえ言うたん、キャプテンでしょ」
「ぐぎぎ……」

 白峰は胡坐をかいて座っていても、俺より頭一つ分大きい。身長186cmの生意気な後輩は、今日も今日とてニヤニヤと嘲笑ってくる。

「ほんでキャプテンは最チビやからしゃーないやん、なあ黒岩」
「えっ……あ、あの……」


 体の大きなもの同士で固めると狭っ苦しいだろう、なんて提案するんじゃなかった。
 おかげで両サイドを巨漢に囲まれる羽目になった。右が白峰、左が黒岩。サンドイッチの具の気持ちが分かるというものだ。


「すみませんキャプテン、出来るだけ縮こまって寝ます……」
「え、ええんやよ黒岩! 豪快に寝てええよ、よしよしお前はええ子やな」

 188cmもあるくせに気の弱い黒岩は、何かあればすぐ自分を責めるので彼は彼で厄介だ。

「あっ……ありがとうございます。さすがキャプテン、懐広いなあ」
「ふふん」

 それでも白峰よりもうんと素直で従順だから、ついつい甘やかしてしまう。ふわふわの髪質だから撫でたくなる、というのもある。

「贔屓すんなや」
「いたっ! 蹴んなアホ」

 足が長くてすんません、と嫌味を言ってくる白峰を無視し、俺も寝る態勢に入った。皆疲れているのか、周囲からはすでに寝息も聞こえる。

 両サイドの圧迫感に不満はあるが、部内で最もコンパクトな俺でさえこうなのだから、他の部員をここで寝かすのはかわいそうだ。

「……しゃあない。俺はキャプテンやからな。キャプテンやから我慢できる」
「アホや、すぐ漫画の影響受けよる」
「キャプテンの呼吸……壱ノ型……アホな後輩ガン無視攻撃」
「アホはどっちや」



 白峰が布団を被った音を背中越しに聞く。よし、これでようやく眠れる――と思ったが、少し遅かったようだ。完全にタイミングを逃した。

 田舎のカエルみたいにガーガー言っているのは誰だろう。いびきのオーケストラ。ああ、気になりだすとますます眠れない。体はとっくにへとへとなのに。




「あの……キャプテン……起きてます?」
「ん、んん……?」

 宣言通り縮こまっていた後輩は、平時だったら聞き逃しそうな声で話しかけてきた。

「ちょっと、あの……どうしよう俺、やばくて……どうしたらええですか……どうしよう、あ、あの……」
「落ち着け、なんや」
「先輩、引きません……?」


 まさかお漏らししたとか? いや、流石に高校生にもなってそれはないだろう。
 布団を被ったままもぞもぞと近づき、「引かんよ」と頭を撫でてやれば、彼は意を決したように告げた。

「勃ちました……全然おさまりません」

 お漏らしよりも大変なやつだった。

「先輩、の、匂いが……近くて……えっと、トイレで抜こうかと思ったんですけど帰ってきても先輩いるしそしたらまた勃つだろうし、ど、どうしよ」
「落ち着け落ち着け、一回落ち着け」


 これが白峰だったら揶揄ってやるところだが、真面目な黒岩を茶化してやるのは気の毒だ。
 きっと合宿という特殊な環境に興奮して、あるいは、クタクタになった体が誤反応を起こし、勃起しているだけだろう。俺はそう言ったが、彼は控えめに首を振る。

「せんぱい……」
「寝てたらおさまるって。寝ろ寝ろ」
「む、むりです……ちんこ痛い。先輩、抜いてくれません……? おねがい、キャプテン……」

 黒岩は俺の布団を軽く捲り、控えめに侵入してきた。侵入に控えめも何もないのだが、彼は暗闇でもわかるほど真っ赤な顔で、「キャプテン、キャプテン」と甘えてくる。

 大人しい犬が恥ずかしそうに尻尾を振っている、とかそんな感じだ。しかし忘れてはならない。彼は結構無茶苦茶なリクエストをしてきている。いくら俺が頼りがいのあるキャプテンでも、応えられるわけがないのだ。

「アホ、なんで俺がそんなん……」
「ああ……だめですよね、すみません調子乗りましたすみません無理ですよね、じゃあ勝手に襲わせていただきます……」
「わ、わ、わかった。しゃあない、俺はキャプテンやからな。まあ俺に任せとき」
「せ、せんぱい……



 俺は黒岩の、頼りになりますと言わんばかりの視線に弱い(それから、不穏な発言も聞こえた)。

 他の後輩は俺を小馬鹿にしてくるやつばかりだから、こうして素直に頼られるとどうも、応えてしまいたくなる。俺たちはこっそりと大部屋を出て、すぐそばにあるトイレに向かった。


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