無知な番犬×すけべ中級者ぼっちゃま

無知な番犬×すけべ中級者ぼっちゃま




 ぼっちゃまの朝はそれほど早くない。おひさまの光が窓から入って来ても、むにゃむにゃと気持ちよさそうに熟睡している。

 ただ、ぼっちゃまの番犬の朝は早い。


「グルルル……」

 番犬、と言ってもその実狼の獣人で耳と尻尾以外は人そのものなのだが、ぼっちゃまはまさか拾った捨て犬が狼だとは思わないので、何も知らずにワンコ扱いしている。

 獣の姿で2m、人型でも190cm程ある巨漢を、かれこれ一年ほどワンコ扱いしているのだ。

 ワンコなので同じ部屋で寝るし、ワンコなので目一杯に可愛がる。他の執事に文句を言われようとも、「でも、この子はワンコだよ」の一言で乗り切っているのだ。



「すぴ……すぴ……」
「グルルルル……」
「しゅぴ……しゅぴ……」
「グルルルルルルルル……」

 狼の彼はぼっちゃまに対して唸っているのではない。牙を剥き出しにし、髪をぶわりと逆立て、扉の向こうの気配を警戒しているのだ。

「ぼっちゃま、そろそろ朝食のお時間……ッチ、またお前ですか。邪魔ですよ獣畜生が。ハンバーグにされたいのか?」
「ヴ〜〜……グルルルル……」
「ぼっちゃま、本日はおちんぽミルクとバナナのスムージー、そしておちんぽミルクパンケーキっうわ、危ないな! 零れるだろうが! クソ犬がっ!」
「ガウッ! ガァッ!」


 狼の彼は、この屋敷の中で最もぼっちゃまに忠実な存在だ。


 歪んだ忠誠心を持った執事長とも歪な独占欲を持った料理人とも違う。

 ぼっちゃまを純粋に慕っているからこそ、おちんぽミルク入り料理を食べさせるわけにはいかない、と吠える。もちろん、ぼっちゃまが目を覚まさない程度の声で。

 言葉を操るのが苦手な彼は、人の姿をしていてもあまり人間らしくはない。

「何をしているのです、騒がしい」
「ゲッこれはこれは執事長の南条さん……あの獣人、一応執事なんでしょう? しっかり教育してください。私に向かって吠えるんですよ。躾が足りていないのでは?」
「あれは私の管理下ではありません。ぼっちゃまが直々に執事教育をされていますから口出しできないのです……ところで東堂さん、その料理、まさかぼっちゃまに食わせるつもりか? 殺すぞ」


 彼らの小競り合いは今に始まった事ではない。ナイフと銃声が飛び交う前に、狼は慣れた様子で扉を閉め、防音シャッターを下ろした。

 彼はぼっちゃまに対しては忠実で真面目であるが、他の者にはひどく冷たい。
 彼はこう思っている。今自分が優先するべき事項はぼっちゃまの健やかな眠りであって、執事長と料理人のいざこざなど心の底からどうでもよい、と。

「んん、んむ……ぷしゅるる……」
「クゥン……

 尻尾を振って、もうすぐ目覚めそうなぼっちゃまに頬ずりをする。狼男は無骨な容姿に似合わず甘えたがりな性分で、主人との二人きりの時間を何よりも大切にしていた。

 彼はぼっちゃまの寝息を吸い込み、うっとりと目尻を下げている。

「んんん……しゅぴぃ……」
「ぼ、ちゃま……
「んぅ、くすぐったい…… んっ……ふふ、おはよう。ブルーノ」
「ぼっちゃま…… お、おは、よう……

 ブルーノが執事長たちに牙を剥いていたことも知らず、ぼっちゃまは呑気な大あくびを漏らす。
 まだうとうとしている彼は、ブルーノをベッドに誘い、分厚い胸板に頬を擦りつけた。

「あ、あ、ぼっちゃま……
「んん、ブルーノ、今日もお勉強らよ……執事の、おべんきょ……んん……」
「はい、ぼっちゃま。ぼっちゃまの、お勉強、たのしい……すき、です」
「うん、いいこ、いいこ、んん……すぴ……」

 勉強をすると言っておきながら二度寝を始めた主人を、ブルーノはじれったそうに抱きしめた。
 目覚めてほしい、構ってほしい、けれど眠りを妨げてはいけない、どうしたものか――不器用な彼は切なそうに喉を鳴らし、ぼっちゃまの顔を控えめに舐める。

「ぼ、ちゃま。ぼっちゃ……あ、っ、起きた、起き、ました?」
「ん……ん、ちゅ、ちゅう……
「はぁ、は……っん っく、はぁ、ふーーっ ふーーっ

 待ちわびていた”勉強”の開始に、ブルーノは布団を吹き飛ばすほど尻尾を振った。それを見たぼっちゃまは「ふとんがふっとんだ……ぷぷぷっ」と一人で笑っている。


 鋭い聴覚を持つブルーノには防音シャッターがドンドン鳴る音が聞こえていたが、ぼっちゃまに聞こえていないのを良い事に、彼は知らんぷりして主人の唇を貪り始めた


 next→





 ←index ←home


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -