▼妹の彼氏(サイコ系クズ)×不憫平凡
妹の彼氏(サイコ系クズ)×不憫平凡
※攻めが倫理観のないサイコ系無邪気クズ※
土曜日の朝、スウェットのまま階段を降りる。何か食べたらまた寝るから、今日は着替えなくてもいいだろう。
気の抜けた顔でリビングに入ると、爽やかな青年が微笑みかけてきた。
「お邪魔しています、桜先生。ふふ、お寝坊さんなんですね」
「お兄ちゃんやっと起きてきた。もう、せっかく薫くんが来てるのに」
薫くん、と呼ばれた彼には見覚えがあった。実習先の高校の、たしか三年生だったと思う。
クラスは忘れてしまったが、なかなかいないくらいの美青年だったから、顔と名前は覚えていた。
「えっと……薫、くん? がなんで家に?」
「あ、あのね、彼氏なの。ふふ、昨日いきなり告白されてね、びっくりしたんだけど、すぐに家族にも挨拶したいだなんて……薫くんって意外と古風で、きっちりしてるみたい」
妹の千春は僕とは似ておらず、美人で明るくて優しい。けれど案外控えめな性格だから、彼氏ができるのは初めてのはずだ。
こんなに舞い上がっている姿を見ると、青春だなあとしみじみする。僕はパンをくわえながら、「うれしそうだな」と相槌を打った。
それにしても、薫くんは千春の方を全く見ず、パンにかぶりつく僕ばかり見ている。もしかしてお腹がすいているのだろうか。同じものをすすめてやると、彼は嬉しそうに受け取った。
「でも私、これからバイトなの。だから薫くんもそろそろ……」
「僕、桜先生ともっと話してみたいな。未来のお兄さんになるかもしれないでしょう?」
「えっ……! そ、そんな、気が早いよ。でもそういうわけなら、うん」
キャアと小さく悲鳴を上げ、千春は玄関を出て行った。薫くんはそれに目もくれず、僕の口元に手を伸ばし、「ついていますよ」と微笑んだ。
妹が見たら赤面しそうな、極上の笑みで。
「桜先生、休日はこんな感じなんですね」
「は、はあ、まあ」
「へえ、意外な一面が見れました。スーツ姿しか見た事なかったけど、こっちの方が……」
僕は別に彼を嫌っているわけではないが(むしろ爽やかでいい子そうだと思っている)、妹の彼氏――それも来週以降の実習で顔を合わせる生徒――と突如二人きりにされるだなんて、正直勘弁してほしい。
せっかくの休日は寝て過ごしたかったが、客人を放置するわけにはいかない。どうしたものかと苦笑いしていると、薫くんはそのきれいな顔を近づけてきて、僕の髪に指を絡めた。
「な、何かな?」
「寝癖……ふふ、隙だらけ、ですね」
「え……?」
「そんなんだから、襲われたりするんですよ」
後頭部を押さえつけられ、唇がぶつかった。
「んっ……っ!? ん、ぅ、な、なに、んん〜〜……っ」
彼は目を開いたまま、甘ったるい息を吐く。
「見ちゃったんです。先日屋上で、もう一人の実習生さんに抱かれてるところ……」
「っ、ん、ぅ……っ」
頭を横に振ろうとするが、強い力で押さえつけられて動かせない。
舌を抜き差しする合間に、彼は爽やかな表情を崩さずに言った。
「一生懸命授業をした後に、あんな風に犯されているあなたを見て、すごく興奮して……僕も先生とえっちがしたくなって、でも接点が持てなくて、そしたら妹がいるって知って、はあ……本当はもっと時間をかけて囲うつもりだったけど……」
「っはあ、ん、んう、はなせ……っあ、う、んぐっ」
「でも、隙だらけの寝起き姿を見たら興奮して、つい…… だめですね、僕、興奮しちゃうと抑えがきかなくて……」
まだ頭を離してくれない。僕は彼の足を蹴って抵抗するが、逆に押し倒されてしまった。
ソファと彼に挟まれ、身動きが取れない。
そばに置いてある白いクッションは、千春が愛用しているものだ。彼はそれを邪魔そうにはたき落とし、僕を見下ろしてくる。
「抵抗しようって目ですね。でも先生がえっちしてくれないなら、僕、千春ちゃんにひどい事しちゃうかも」
「な……っ」
「ああいう女って、案外すぐに股開くんです」
――――こいつクズだ。千春はあんなに幸せそうにしていたのに、こいつ……!
「ヤリ捨てしていいですか。あなたの妹」
僕は怒りを通り越して、悲しくなった。なぜ妹はこんな男に惹かれているのだろう。なぜこいつは、こんなひどい事が出来るのだろう。
「……っお前は金輪際、一生、千春にはかかわるな! 約束しろ!」
「いいですよ。でもその代わり、桜先生は僕と仲良くしてくださいね?」
「っ……わ、わかった……でも、千春には」
「はいはい、わかりましたって。さあ、口を開いて……」
爽やかな笑みは、ねじ曲がった本性を隠すためなのかもしれない。唇の淵をなぞられて気持ち悪い。
何で彼は、僕みたいなのにこだわるのだろう。どう考えても妹の方が美人で、性格も良くて――いや、しかし。
「っ、く、ぅ……っん、っはあ、ん……っ」
「すごく、どきどきしてきました…… 僕、先生に恋してしまったんです……」
妹にこだわってくれない方が、よかったに決まっている。千春にこんなやつの相手をさせるわけにはいかない。
せめて彼の目が妹に向かないよう、僕は繋ぎ留めておく必要がある。熱い舌を迎え入れて、絡めて、捕まえておく必要がある。
「ん……っく、ぅ、んぅ、んぅ……っ」
さっきからキスをされるたび、タバコの匂いがしてならない。
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