ヤンデレ友達×彼氏持ち鈍感

ヤンデレ友達×彼氏持ち鈍感


※暗い
※後味が悪い



 男同士だし、そういう対象として見られていないのは重々わかっているし、俺たちはこれ以上の仲にはなれない。

 けれど互いに一番仲のいい友達だから、それでいいと思っていたのに。


「あのね……祐生(ゆうせい)くん」
「うん?」

 大人しくて口下手な彼が、珍しく自分から話しかけてきた。しかもニコニコとうれしそうに笑っている。
 なんだろう、好きな小説の続編が出るとか? それか、さっき返却された小テストが高得点だったとか。

 何にせよかわいい。こいつがはしゃぐような事は、大抵些細で微笑ましい事だと相場は決まっている。

「ちょっと、こっち。こっち、きてきて」

 放課後を迎えたばかりの廊下を、結人はずんずんと進んでいく。何をそんなにそわそわしているのだろう。長年幼馴染をやっているが、こんな風に腕を引かれるのは初めてだ。

「はは、どうしたんだよ結人。そんなに急がなくてもちゃんと着いていくって」
「あ、いた……先輩!」

 結人の小さな手が、俺から離れていく。まだ俺を連れてきた理由を聞いていないのに、寒気がして足がすくんだ。

 とんでもなく嫌な予感がする。心臓が耳の真後ろにあるみたいに、どくんどくんとうるさい。

「あのね、祐生くん……ぼくたちね」

 やめろ結人、わかったから。もう喋るな。だって、そんなうれしそうで照れた顔、してるってことはさ、たぶん、ああやっぱり、お前、その先輩とやらと――――


「付き合うことになったの」


 結人の声に吐き気を覚えたのは、これが初めてだった。

「祐生くんは一番の友達だから、はやく教えたくて」

 俺は偉いと思う。この場で彼のかわいい顔をぶん殴って、お前を友達だと思ったことはない、と言わなかった。

「ああ、そうなんだ。へえ……」

 笑顔は作れなかったしおめでとうも言わなかったけれど、でも、俺は偉かったと思う。




***




 俺が結人と居られる時間は、思ったよりも減らなかった。

 結人の恋人は受験生らしく、放課後は塾に勉強にと忙しい。
 それでも結人は幸せそうだった。僅かな時間でも、電話したりするのが楽しいんだそうだ。


「でも俺だったら、恋人を放置するようなことは絶対にしないけど」
「え?」
「いくら忙しいからってさ、まだ付き合いたてだろ。冷たくね?」

 陰でコソコソとあの男の評判を下げようとする、なんて惨めな奴だろう俺は。

 余計に辛くなるからやめたいのに、口はペラペラと勝手に動く。

「あの人、前にクラスの女子たちが噂してた。かっこいいーって。モテるっぽいし、チャラそうだし、結人絶対遊ばれてるわ。どうせ塾なんて嘘でさ、今頃年上の女とかと……」
「ちがうよ。勉強、がんばってるんだよ。それに放置されてるわけじゃなくて、ぼくが勉強の邪魔したくないって言ったの」


 ほら、やっぱり。結局自分が辛くなっただけじゃないか。
 俺って成績はいいけど馬鹿なのだろうか。自分で作った地雷を自分で踏んだ。


「……ふーん。てか、いいわけ? 俺と部屋で二人きり。浮気じゃん。怒られても知らねえぞ」
「ふふ、友達といるだけで怒ったりしないよ」


 柔らかくて、心の底から俺のことを友達だと思っている声だ。かなり顔が近いのに離れようとしない。無警戒に笑いかけてくる。

 すごく、すごく悔しい。悲しい。切ない。腹が立つ。負の感情がどろどろに混ざって、これ以上は耐えきれない。

 俺は乱暴に彼の顎を掴んだ。胸ぐらを掴むように。きっと痛かっただろう。びっくりして、目をまん丸に見開いている。


――――なんで逃げないんだよ。くそ、全くの脈ナシじゃないか。


「え、ぇ……? ん……っ」


 一瞬唇が触れただけで俺は爆発しそうなのに、結人は顔を赤くするどころか戸惑った表情で、「……どうしたの?」小さな子供にキスされた時の、大人のリアクションだった。

 照れも怒りも何もない、彼の「どうしたの」には少しの心配と疑問しか含まれていなかった。


――――ああ、やばいな、泣くわ。これは、結構きついな。


「え……っ、ど、どうしたの? 泣かないで、ゆ、祐生くん」
「なあ……っもう、あいつとヤった……っ? あ、あいつと……ヤったのかよ。キスとかセックスとか、したのかよ……う、っく……っ」
「そ、そんなこと……い、言えないよ……」


 困惑しかなかった顔に赤みがさして、その瞬間俺の中にあった良心のカケラは砕け散った。

 不当な怒りだとわかっている。だが俺は卑怯にも泣き顔を晒した。顔を歪めて鼻をすすって、結人の心になんとか入り込もうとする。

 滲んだ視界に彼が映った。地味で平凡なタヌキ顔。だけど笑う時に目を細めるととてもかわいい顔。
 俺だけが知っていると思っていたのに。彼の表情は全部、俺が一番詳しかったのに。


「あいつとできるなら……俺とだって、できるよな……?」


 やさしい結人は、泣いている俺を放っておけないはずだ。
 心配してくれるはずだ。流されてくれるはずだ。

「ひ……っ何する、ん……っ」
「だって俺の方が、俺の方が……っ、ずっと前から好きだった! 俺の方が好きなんだ、俺の方が知ってんだよ、お前のこと」
「はな、して……っや、やめて、あ、んぅ……っ! いや、た、たすけて、先輩、せんぱ、ぁ……っどうして、なんで祐生くんっこんなこと」
「はは……いいじゃん、別に」

 ベッドに彼を押し倒すと、昨晩のオナニーを思い出した。嫌がる結人を無理矢理犯して、強引に俺のものにする妄想。

「いやだよ、やめてよ……っひどい、友達なのに……」
「友達だって言うなら、これくらい許してくれるよな?」


 なあ結人、友達っていうのは、わざわざ親のいないタイミングを見計らってお前を部屋に呼んだりしない。

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