▼バスケ部ルーキー×熱血鈍感コーチ
バスケ部ルーキー×熱血鈍感コーチ
バッシュが床を擦る、キュッキュという音。
ボールを叩きつけた時の、ダムダムと跳ね返る音。
「はあっはあっはあっはあっ……」
一番近くで聞こえるのは、進藤の熱い熱い吐息だ。
キュッキュ、ダムダム、はあはあ、キュッキュッ、はあはあ、ダムダム、はあはあ、はあはあ、はあはあ、はあはあ、はあはあ。
「うるさいぞ! けどその調子だ進藤、もっと密着してこい」
「密着……! いいんすか!」
「当たり前だろ、ディフェンスの練習なんだから」
進藤は恵まれた体格とセンスの持ち主で、部内でも期待されているルーキーだ。だが経験が浅く、中でもディフェンスはやや不得手。
そんなわけで部活後、俺とマンツーマンで居残り練習をさせている。未来のエース候補をきちんとエースにするのは、コーチである俺の仕事なのだ。
「っん、いいぞ、もっと張り付くみたいに、激しくしろ」
「張り付く……? 激しく……?」
「こら、抱きつくやつがあるか! 堂々と反則すんな」
「コーチがしろって言ったのに」
一瞬だったが、やけに熱い抱擁だった。いや、気のせいだろう。それだけ気合が入っているということだ。関心関心。
向上心のある生徒を見ていると、どうにもうれしくて顔が緩んでしまう。
「はあ、はあはあはあ……っ匂い、すげえっす こんなん、近すぎて、はあ、汗の匂いが…… はあっ、はあっ、すうううはあああああ……」
「悪い、汗臭いか」
「いやもう全っ然! 股間、はあ、に、はあ 響くっす、はあはあはあはあ」
「股関……!? 股関節か!? 馬鹿野郎! 痛めてんなら早く言え、見せてみろ!」
「え、こ、コーチそんな大胆なっ」
未来のエースが故障でもしたら大変だ。俺はボールを手放し、進藤のハーフパンツをずり下した。
部室に戻ってから見ても良かったが、怪我の処置は早ければ早いほど良い。体育館には俺たちしかいないし、大して恥ずかしくもないだろう。そう思い、彼の股間と俺の顔が同じ高さになるよう、しゃがみ込む。
「おい、どう痛いんだ」
「そ、それはぁ…… こう、燃え滾るような」
「なっ……激痛じゃないか!」
進藤は顔を赤らめてはいるものの、表情自体はへらへらと穏やかだ。まさか彼は、俺に心配をさせまいと気丈に振舞っているのか。
だとしたら俺は指導者失格だ。選手のコンディションに気づかず、居残り練なんて無茶をさせてしまった。ああ、何という事だろう。
「コーチ、すごいっす…… もう、気がおかしくなるくらい。ほら、ここ、超腫れてるでしょ」
「こ、これはちんこだろ……え? 腫れ、なのか」
「はい コーチのせいでパンパンになってます」
「俺の、せい……?」
オーバーワークをさせていた俺は、進藤の股関節に炎症を起こし、ちんこにまで悪影響を――――な、何という事だ。選手生命だけでなく、男としてのアレコレをも、奪ってしまったというのか。
熱くなっていた頭が一気に冷えていく。ああ、俺は何という事を。何という事を!
「う、うう、すまん、進藤……! 謝っても許されんと思うが、俺にできる事があれば、何でも言ってくれ……!」
「え? じゃあ抱かせてほしいんすけど」
タフな男・進藤は、軽い感じで「なーんつって」と付け足した。こんな時に冗談はやめろ、と怒鳴りたくなったが、彼の股間は依然腫れあがったままだ。
俺は目頭が熱くなった。なんて健気な男なのだ。俺を動揺させまいと、あえて軽薄に振舞っている。しかしこの腫れ具合、尋常ではない痛みだろう。
「わかった。男に二言はない!」
「まじ? コーチってほんと……俺が守ってあげないと心配っすね……」
「うう、お、お前というやつはぁ! こ、この期に及んで、俺の心配をぉお」
「あーハイハイ。でもそういうところ、正直めちゃシコっす」
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