サイコ陽キャ×彼氏持ち平凡顔高飛車

サイコ陽キャ×彼氏持ち平凡顔高飛車


※NTR
※無理矢理
※ヤンデレ




「なあ、なんでできねえの?」

 彼の純粋な瞳が嫌いだった。悪意のない、キラキラと弾んだ声色。


 せっかくプールのない高校を選んだのに、どうして今年から近所の大学の施設を借りる、なんて事になったのだろう。
 僕はビート板を抱きしめたまま、先生たちの視界に入らないように必死だった。そのせいで彼にまで頭が回らず、こうして捕まってしまったのだ。

「俺が支えててやるよ。25メートルなんて一瞬だって!」
「い……いいえっいやです! フンッ……あ、返して……っ」
「こんなの抱えてたら泳げないぞ! ほら、がんばれ!」

 皆こいつの事を良い奴だと褒めるが、僕にとっては悪魔だ。鬼だ。

「あ"っ、んがっ、んぶぶ……っ」

 強い力で手を引かれ、プールの底で足を滑らせてしまった。瞬間、あろう事か彼は、僕の手を離したのだ。

 頭までどっぷりと沈む直前、見えたのは、例の如く弧を描いている目。綺麗に揃った白い歯。


「あれ? おかしいな、普通浮くはずなのに」
「もがっ、たす、助けてっはひっ、ひっ、ひどっ、ひどい"ですよ"ぉっゲホッ……ガハッ……このクズがぁ"っ……ゲホッあぶっんぶぶっ」
「ああ、ごめんな? でもずっと支えっぱなしじゃ、お前のためにならないだろ」

 水を引っ掻いても引っ掻いても指からすり抜けていく。体を安定させようともがくほどに沈んでいく僕を、彼は心底不思議そうに見つめていた。

「星川、なんでこんな簡単なことができねえの?」

溺れているフリをして脛を蹴ってやろうか。そう思ったが、水の中で自由に動けない僕は、無様にも彼に横抱きにされ、救出されるのだった。




***




「開発部の江藤さまとお約束させていただいてます。14時から」
「星川さまですね。お待ちしておりました、2階の商談室へどうぞ」
「どうも」


 社会人生活はそれなりに快適だ。プールで溺れる事もない。体が冷えておしっこを漏らしてしまう事も、それを大きな声でバラされる事も。

「……遅いですね。フンッ……あのジジイ、向こうから呼んだくせに」


 快適なはずなのに、ふとした時に不安になる。
 みんなが泣いていた卒業式でもずっと笑顔だったあいつ。だが僕が遠くの大学に行くと告げた瞬間、眉をぴくりと動かして、笑顔を消した。

――――僕の馬鹿、いつまで引きずってるんだ……今は仕事だ。大事な取引先。ヘマはできない。今回の契約を取り付ければ、年間5000万円は硬いのだ。


 脚を組み替えようとした時、商談室の扉が開いた。僕はハッとして立ち上がり、営業用の笑顔で頭を下げる。

「江藤さん、お世話になっており……え?」
「星川! うわあ、久しぶりだなあ……! 会えてうれしいよ!」
「う……っ……空井(うつい)……くん」


 口を大きく開けて歯を見せて笑う顔は、あの頃と変わっていなかった。
 僕は喉の奥が閉まるのを感じたが、唾を飲み込んで自分をごまかす。ここはもう、高校の教室でもプールの中でもないのだから。

――――もう僕は社会人として立派にやってるんだ。別にビビる事ないだろ……


「……お、驚きました。江藤さんは?」
「江藤なら担当を外れたよ。だからこれからは、うちに来るときは俺を呼んでくれ」
「……わかりました。よろしくお願いいたします」

 空井は僕の真横に座り、馴れ馴れしく肩を組んできた。彼に触れている部分の皮膚がぷつぷつと泡立っていく。
 この男にはいつだって悪意なんてないのだろうが、僕は散々踏みにじられた思い出がある。唇が震えてしまうのは、どうしようもなかった。

「なんだよ、堅いなあ。久々に会ったんだ。この後昼飯でもどうだ? 星川は肉より魚派だったよな、そんで刺身より焼き魚……うん、ならあそこの定食屋! ああ、でも蕎麦アレルギーだったっけ、じゃあだめだな、近くの客がそば定食頼んだら困るし……ああ、そこの名物って蕎麦なんだけど、俺はアジのセットが一番好きで」
「あ、あの……空井さん」
「なんだ? 今日は肉の気分か? それなら最近できたステーキ屋! なんとかっていう希少部位が一日限定20食だから、早めに行かないと!」
「あの! ぼ、僕は……まずはお仕事のお話を、させていただきたいのですが」

 この能天気な男も、これだけ分かりやすい苦笑いを見れば自重するだろう。僕はわざと下手な芝居を打ち、一定の距離を取るように促す。
 だが何を思ったのか、空井は「心配すんなよ!」プールで僕の手を離したときと同じ、無邪気な顔で告げた。


「星川のとこの商品は、いくらでも買うよ。質の悪い商品でも馬鹿高くても何でも買う! だって、俺はお前のためになりたいからな!」


 明るく陽気なのも過剰になると気味が悪い。しつこく密着してくる彼から顔を背ければ、彼の手は僕の肩から離れた。

「……っ〜〜〜〜……

 嫌がっているのを察してくれたと思ったが、そうだ、彼はいつも自分自身に都合のいい男。僕が一番嫌がることを、カラッとした笑顔でやってのける。

「あ…… や、やめ……ひぅ……っ
「やっとこっち見た! 星川、かぁわいい……

 スーツのジャケットの下に手を入れられ、指でツー と背筋をなぞられる。現在恋人に背中を開発されている僕にとって、この刺激は毒だった。

「はぅ んっ、やめ、やめてくださいっ 空井くんっ、あ”…… わ、脇もっ やめてください……っうう、あぅう……〜〜っ
「ははは、なんだよ、まさか誰かに開発でもされてんのか? なぁんて、星川に限ってそんなわけないか」
「……っあひ…… さ、されて、ますよぅ……っ 中学からずっと、付き合っている彼に、開発、されて、ひぅっ!?」

 背中の肉を、ぎゅっ と摘ままれる。シャツ越しではあるが、そこは昨晩恋人に噛まれた場所だ。まだジンジンと熱を持っている場所だ。だから、不用意に触られると、つい条件反射でイきそうになる……っ

「中学、から……? 付き合ってる、恋人……? そ、そんなのが、いたのか」
「んっ、ひぃ……っ やめ、さわ、触る、な ん、さわゆなぁ……っ

 僕の優しい優しい恋人は、一つ年上でいつだって冷静で、眼鏡が似合う知的な人なのだが、困った癖が二つある。
 興奮したら本気で噛みついてくる癖と、それから、「生意気な淫乱を墜とすのが好み」という、性癖……

 そのせいで僕は、彼の前以外でも、高飛車な振る舞いをしてしまうのだ…… 自分が平凡で地味な男なのは自覚している。けれど愛する彼のために、墜とされる事を前提とした生意気な淫乱を……お”っ


「あ……ああ! わかった、わかったぞ星川!」
「んひぃ お”っ いつまで触っているのですっ はふっ 脇っ 脇はやめ、お” 脇まん……っん”ん”っ何でもありませ、ぁ” いい加減にしろっ、このクズ野郎ぅう……〜〜〜〜っんほぉ……
「その恋人って言うのは、あれだな、その、俺の事だ」

 両腕を持ち上げられ、万歳のポーズで固定される。空井は全開になった僕の脇に鼻を擦りつけて、「すうううううう…… はあぁあああ〜〜〜〜……っ」皮膚の下を走る動脈が震えるくらい、激しく吸って吐いてを繰り返している。


「星川も俺の事、好きでいてくれたなんて……っうれしいな! そうか、付き合ってるって思い込むくらい、好きでいてくれたなんて!」


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