新novel | ナノ
だって、しょうがない の続き



虫だ
そう私の苦手な虫
羽が生えた虫

自室に入った瞬間、虫とエンカウントしてしまった
飛び立たないように、気配をなるべく消しつつ廊下に出るためドアを開ける


「…ひっ」


ドアを少し動かしたら羽の生えた虫は音もなくこっちに飛んできた


「うわああああああ」


若干のパニックになり思わずベランダに飛び出した


「ど、どうしたの?大丈夫?」


部屋にいたらしい真琴が慌てて出てきてくれた


「助けて!部屋に虫が!助けて!」


「ああ、虫かあ…」


驚かすなよー、とかのんきなことぬかしてる
それは私が虫に言いたいんですけどね


「よっと…」


柵を乗り越えて私の部屋の前のベランダに来る真琴


「虫、外に出すけど俺の部屋の中にいた方がいいかも?」


どうする?と問う真琴に、即答でお邪魔しますと答えたらおかしそうに笑った
笑いごとじゃないぞ、それくらい虫が本当に苦手なんだ


柵を乗り越えようとしたら、危ないからと真琴はもう一度自分のベランダに戻り、手を差し出して支えてくれた


「…ありがと」


「どういたしまして」


にっこりと笑う真琴
ああ、天使に今日も会えた


「少し待っててね」


再び私の部屋の前に戻ると扉を開けティッシュを取り虫を探し始めた
私は真琴の部屋の扉を開け、お邪魔します、と一応声を掛けた


…昨日、散々からかわれたのに結局また真琴の部屋に入ってしまった
不可抗力といえるかわからないけど、私の意思じゃない、虫のせいだと自分に言い聞かせる
言い聞かせている時点で、真琴に負けた気がしてやっぱりやめた


例の本棚を盗み見ると、アルバムはきちんと仕舞われて、例の本は気配すらない
今度はちゃんと隠したんだろうか、場所変えたのかな
…いやいや、もう関係ないか

誤魔化すように私の部屋にいる真琴を見る
真琴は虫を見つけたようでティッシュで掴んで、虫を外に放っていた


もう大丈夫だよ
そう口が動いたのを確認して、扉を開けた


「ありがと、真琴」


「いいえ」


なんてことないとでもいうように軽く笑ってこちらのベランダにやってくる


「…」


「…なまえ?」


なんとなく無言になってしまった
広くないベランダで2人、真琴は私を見下ろすけど、私は真琴の顔が見られない


「…」


「…ふふっ」


「っ、なんで笑うの?」


「ごめん、なんか可愛くて」


「…」


居心地が悪い
いや、良いのだけど言いようのない恥ずかしさがこみ上げる


「ありがとね、部屋戻る」


「…」


部屋に戻ろうと柵を乗り越えようとしたら今度は真琴が無言になった


「…なに?」


「せっかくだし、部屋、上がっていく?」


「…」


声色が少しくすんでいて、真琴の顔をじっと見ると
眉毛をいつもより八の字に下げて私を見ていた


「…うん」


「…良かった」


ほっと安心したように、どうぞ、と扉を開けて部屋に招いた真琴
…あんな顔させるつもりじゃなかったのに、傷付けてしまったかな
確かに虫を追い払ってもらうだけってなんだかひどい扱いかな


「…なまえ?どうかした?」


「真琴、ごめんね、傷付けた?」


「へ?いや大丈夫だよ」


「そ、そう?なんか一瞬落ち込んでるように見えたから」


「ああ…」


そうじゃなくてね、と苦笑を漏らす


「違うんだ、待ってて、何か飲み物とってくる」


誤魔化すように私の頭をポンポンと軽く叩くと部屋を出て行ってしまった


違うって、じゃあどうしてあんな顔したんだろう

というか、この感じは昨日を思い出してしまう
真琴が飲み物を取りに行って、私があの本を見つけて、真琴に…


「お待たせ」


「うわっ…?!
あ、ああ、うん」


明らかに挙動不審な私に真琴は苦笑して、どうぞ、と麦茶を手渡してくれた


「あ、ありがと…」


「うん…」


昨日よりはマシだけど、なかなかに気まずい空気が流れる


「あのさ…」


口火を切ったのは真琴だった


「もう、部屋に来てくれないかと思った」


「え…」


「昨日、意地悪しすぎたかなって思って…」


ごめんね、と眉毛を下げる真琴
…その顔に弱いんだ、私は


「ううん…、元はといえば私が勝手に見たのが悪いから…」


私こそごめん、と謝ると真琴はにっこり笑って


「本当、良かった」

と、強張らせていた肩を下した


「真琴ってさ…」


「うん?」


「天使と悪魔が同居してるよね」


「ええっ?!どういうこと?!」


「学校とかでは大天使で見てるだけで浄化されるけど、部屋とかでは悪魔降臨して浄化したくなる」


「…その表現は若干分かりづらいけど、、確かになまえと二人だとなんかこう…」


「こう?」


「い、いじめたくなるというか、ちょっかい出したくなるというか…」


「…」


「な、なんかごめん…」


なぜか小さくなって謝る真琴
いや、自分に正直になると、大天使も大好きだけど、悪魔も大好きなんだ…
でもそれを真琴に伝えるかどうか非常に悩ましい
意地悪がより加速しそうで今まで言えなかった…


「大丈夫、だけど」


「や、やっぱり嫌だよね?出来るだけ我慢するから…」


より小さくなって、怒られた大型犬みたいになっている
…可愛い


「そうじゃなくて、ね」


「うん?」


眉毛を下げたまま顔を少し上げた真琴



「ま、真琴っていつも、どっちかっていうとちょっかい出される方じゃない?
だから…、そういう真琴にちょっかい出されるのも悪くない、というか
嫌いじゃない、というか…なんというか」


ああ、ついに言ってしまった
しどろもどろだけど、言ってしまった

瞬間、ぱっと嬉しそうに「本当?!」
と、顔を思いっきり上げた


「ほ、んとう、というか、いや、あんまり過激なのは私もどうかと、いやあの」


どうしよう、どう伝えるべきか
慌てる私をよそに真琴は


「これからは、適度にちょっかい出すよ」


と嬉しそうにほほ笑んでいる


「適度っていうか…、お手柔らかにお願いします…」

「うん、任せて」

にっこり笑う真琴
…任せていいんだろうか



「じゃあ、手始めになまえのパンツくれる?」


「はい?!手始め?!パンツ?!」


「はは、冗談だよ」


「目が笑ってないよ…、真琴」


「心の準備が出来たらちょうだい
いつでも待ってるから」


「い、いやいやいや!そんな天使の微笑みされても!
冗談なんでしょ?!」


「…ふふ」


「本当、お手柔らかにお願いします!!」

「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -