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私の家は、真琴の家の隣でなおかつ私の部屋は真琴の部屋の向かいで、小さいベランダが隣り合っていて少し頑張って柵を乗り越えればすぐ真琴の部屋に行けてしまう


ので、つい真琴の部屋にちょくちょく行ってしまう
柵を乗り越えるたびに、俺がそっちにいくよとか危ないから玄関からおいでとか、あわあわする真琴が見たいわけでは、決してない


「もー、危ないっていつも言ってるだろ?」


「大丈夫、大丈夫、おっこちても真琴が助けてくれるよ」


「俺どんな超人なの?!」


はあー、と大きい溜め息を私に向け、なにか飲み物とってくるよと部屋を出て行ってしまった

毎日のように真琴の部屋に遊びにくるのだけど、玄関からお邪魔したら毎回真琴の家族と顔を合わさないといけないわけで

いや、真琴のご家族はみんなとってもいい人だ
昔から優しくて、いらっしゃいと迎えてくれる

けど、逆にそれが恥ずかしいのだ
毎日毎日遊びにきて、私がどれだけ真琴に会いたいのかバレてしまうではないか

…もう今更な気はするけど、恥ずかしいものは恥ずかしい
から失礼かもしれないが、ベランダからお邪魔することにしている
真琴には、玄関まで行くのめんどくさいと誤魔化してるけど


真琴はまだ部屋に戻ってこない
蘭と蓮にあそぼーって言われてるに違いない


暇になって真琴の部屋を見渡す
ふと、本棚に目がいった

本や漫画といくつかのアルバムが並んでいる
ごめん、見させてと一人で真琴に謝って、一冊のアルバムを手に取る

子どものころの写真だ、大天使真琴と、遙と私が笑顔で写ってる
遙はそっぽ向いてるけど



「…ん?」


本が並んだその奥に隠すように本がある
これはもしや


いやいや、見ちゃいけないものなんじゃ
いやいや、いやいやいやいや


ごめん、真琴

もう一度勝手に真琴に謝り、その本を手に取る
表紙を見ると「幼馴染な彼女」とかいうタイトルでしっかり18禁と書かれている

あと1年足りないとかそんなことはどうでもいい
タイトルに幼馴染という単語が入っていることが問題だ

表紙の女の子はなんとなく髪型が私に似ている


そのまま無言で本をさっとめくると、タイトル通りに幼馴染が付き合ってそのままことに及ぶという内容だった


お互いが名前を呼んでるんだけど、その名前は○○となっていて自分で入れられるようになっている

…手が込んでるなあ



「なまえ、ごめん遅くなって
蘭と蓮が…」


「…あっ、」


しまったつい夢中で読んで階段を上ってくる真琴の足音に気付かなかった
なんだこのありがちなシチュエーションは、実際体験すると気まずいにも程があるぞ


「…見た?」



「…見た」


今更嘘をついてもしょうがない
というか今現在、本を思いっきり開いています、誤魔化しようがございません



「…」


「…ごめん」


そっと本を棚に戻そうとしたらその手を真琴に掴まれた


「それ、18禁だよ」


「…まこだって17歳じゃん」


「俺はいいの」


「なんで?!」


「なまえは女の子でしょ!」


「関係あるの、それ?」


まあ、いささか内容が過激で、女が見るものじゃない感はあったけど


「どんなことしてるか、読んだ?」


…なぜそんなこと聞くんだ
大天使の顔から、少し意地悪な目に変わっている
まずいスイッチを押してしまったかもしれない


「…読んでない」


とっさに嘘をついてしまった
瞬間、真琴の目が光った、気がした

「じゃあ、教えてあげようか」


「いや、いいっ…って真琴!」



「勝手に本見て、いいのかな?」


本を持つ私の手を掴んだまま、引き寄せられる
後ろを向かされ、真琴の上に座らせられる


「ごめんって」


焦る私をよそに、真琴は本を最初のページからめくりだす


「この子、なまえに少し似てるよね
…だから買っちゃった」


耳もとで低く囁く真琴
破壊力がはんぱない、抜け出したいのに動けなくなる


「名前、○○ってなってるでしょ?
いつも俺、そこになまえの名前入れて読んでるんだ」


「っちょ、言わなくていいからっ」


「何回読んだか分からないな、この本」


だから隠し方雑だったかな?とクスクス笑ってる
天使から悪魔に変わった真琴に、もうどうすることもできない


「ほら、キスしてる」


「も、いいから!見せなくて!」


「なまえが読んでたんでしょ?一緒に読んであげようと思って」


よしよしと子どもにするみたいに頭を撫でられる
…絵本だったらどんなにいいか


「俺たちも、同じことしよっか?」


「…っ」


耳にキスするシーンで、同じように耳にキスされた
この流れは非常にまずい


「しない!部屋戻る!」


「だめだよ、勝手に俺の本読んだおしおき、しないと」


楽しそうに笑う真琴


「もう十分された!」



「俺はまだ満足してない
ほら、最後までしちゃってる」


「見せなくて、いいってば!」



「中に出しちゃってるね、子どもできちゃうね?」


「…っ」


「俺も、なまえの子ども、欲しいな」


真っ赤になる私にクスクス笑って「もう、許してあげるよ」
と腕の力を緩めてくれた


とっさに真琴の腕から抜け出して距離を取る


「本、勝手に見ちゃったことは謝る!ごめん」


じゃっと部屋に逃げようとする私に


「せっかく麦茶もってきたのに、もう帰っちゃうの?」


と残念そうに言うから
さっと戻って麦茶を飲み干して、ご馳走様!とだけ言って今度こそ部屋に逃げた


その間もおかしそうに笑ってて、部屋に戻る私に
「また明日もおいで」

と声をかけた




「少し、いじめすぎたかな」

例の本を本棚に戻し、なまえの部屋を見ると
いつもは開いてるカーテンが今日はぴったりと閉められていた

おかしくなって思わず笑ってしまう


「…思ったより早く見つけたなあ」


わざと見つけやすいように置いたこと、きっと気付いていないんだろうな
あの慌てる姿が見たかったんだ


でも…


「明日、また部屋に来てくれるかな…」

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テーマ「人外ファンタジー」
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