欲張りの幸福


「よし、買い物に行こう」


思い立つ日が吉日、有言実行。
そんな発言の2時間後には、ちょっぴり不機嫌な弔くんを連れてショッピングセンターを訪れていた。

というのも、最近俺の家で寝泊まりすることが増えた弔くんの日用品を買いに元々出かけるつもりだったのだが中々予定が合わず先延ばしになっていた。今日は仕事も休みで弔くんも特に用事は無いと昨日言っていたのでここしかないと朝早くに弔くんを起こして冒頭のセリフを言ったのだが……


「……」

「ごめんね?
パジャマとか下着とか、歯ブラシとかもいつまでも俺の使わせるのは申し訳ないし…」


朝早いのが苦手らしい彼は黒いパーカーのフードを被り少し不機嫌そうに身体を揺らして歩く。
そこから覗く灰色の髪は押さえつけられるフードから逃げるように、寝癖がぴょこんとはみ出ていた。髪は柔らかいのに寝癖は強くつくようで、それがなんだか可愛くてクスリと笑ってしまいそうになるのを誤魔化すように、そのはみ出た寝癖を撫でてフードに仕舞い込む。
見上げる顔はやっぱり不機嫌そうだった。

そんな弔くんを連れてショッピングセンター内をぐるぐるとする。次第に飽きた弔くんは店の外にあるベンチに座って待つと言って店の中まで付いてくることは無くなった。
どれがいいかを聞いてもなんでもいいの一言。のくせに俺のセンスで買うと何かと文句を言う弔くん。結局は使ってくれるのであまり気にしていないけれど。

そんな感じで粗方の買い物を終えて、今日の夜ご飯を考えていると、弔くんがとんとんと俺の右肩に触れた。
その手つきは優しかったものの、突然のことで驚きながら振り返ると俺の後ろの一点を見つめた弔くんの顔があった。
何があるのか、その視線の先が気になり振り返ろうとするとその前にその動きを阻止されるように両肩が抑えられた。
抑える手の親指が肩の形をなぞるようにして動く。まるで何かを諭されるみたいだなと思った。

「ちょっと用事思い出した」

なんでも無いように弔くんは言った。肩を撫でる手はまだ動いたままだった。


「時間かかりそう?」

「あぁ」

「分かった。
俺食品の方見てくるから、終わったら連絡して」

「うん」


弔くんの手が離れた。
振り返ろうと思えば出来る。
直ぐそこに彼の目的があることは予想に容易い。
それは彼の彼なり得る要素の一つなのかもしれない、彼を知るチャンスだろう。


「夜まではいるよね?夜ご飯何がいい?」

「ドリア以外」

「えー、そんなに嫌だったの?」


ドリアおいしいのになぁと思いながら、分かったと言って弔くんと分かれる。
後ろを振り返ることはしなかった。
もとよりそんな気持ちなどなかった。

俺はあの日、傷による高熱に浮かされる彼を見て、心に決めていたことがある。
誰にでもあるそれを、彼は持ち合わせていなかったからだ。
俺が彼のその場所になれればと思った。


彼のかえる場所になりたいと、

大人のようで子どもの彼が、

子供のままで過ごせる当たり前の場所に。


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