走光性


息をしているのかすら不安になる程静かにベットに横たわる姿を見て、胸が上下してるのを確認する。
先程から同じことを何度も繰り返していた。





定時から約2時間程過ぎて、漸く勤務先から退社した。時刻は既に20時を回っていた。
食欲より睡眠を欲している身体に鞭打ち、コンビニで簡単に夕食を購入して自宅のアパートへ向かう。

自宅が目の前に迫った時、ふと噂の自動販売機を思い出した。
その自動販売機とは、なんとも不気味で近所でも幽霊を見たなどの噂が絶えない。その自動販売機を通り過ぎれば零の住んでいるアパートはすぐだった。
いつも夕方に通る為そこまで気にしていなかったが既にあたりは暗闇で、怖いものが極端に苦手なわけではないが人並みには苦手で、遠目に見えた自動販売機を早足で通り過ぎることにした。
もう少しで家に着く、自動販売機の横を通り過ぎよとした時、丁度自動販売機の裏側から黒い影のようなものがずれるように横に動くのを視界の端に捉えた。
思わず立ち止まってしまった時、近所でのその噂が脳内をよぎり自分の行動に後悔をした。

見たくない、けれど確かに何かが動いたそして微かな音が聞こえた。
恐怖と格闘しながらもゆっくりと自分の真横にある自動販売機へと視線を向けた。
不規則なライトの点滅、光を求めて群がる虫、いつみても不気味な自動販売機を視界に入れゆっくりとその後側を覗き込んだ、ポケットに入れたスマホを握りしめて。


「…人?」


自動販売機の後ろ側に寄りかかっていたのだろう。そこからずり落ちるように地面に転がっているのは、黒い人型の何か。
鼻につく鉄の匂いを嗅ぎ取り、慌ててその人型に駆け寄った。
職業柄他の人間より嗅ぎ慣れたそれが血の匂いだと分かり、先程まで感じていた恐怖など吹き飛んだ。

その黒い人型はその通り人間だった。
暗闇と黒い服のせいで大分見ずらいが右横腹、右側頭部からの出血があった。詳細までは分からないが、服の下も大小それなりの傷があるだろう。
頭部の傷があまり深くないことを確認して、ゆっくりとその人間を起こして背負う。

本来なら救急車を呼ぶのが正解なのだろう。
路地から続く引きずったような血の跡。
これだけ移動することができるなら普通の人間ならまず救急車を呼ぶだろう。
しかしこの人物はしなかった。
なんとなくだが、自身とは別の世界を生きる人なのだろうと直感でそう感じた。

だが、だからといって目の前で倒れている人間を見捨てる理由にはならない。
決して正義感の強いという訳ではない。
もはや情景反射的なものに近い。


「追加残業させられてる気分…」


自身より体の大きい、男性と思われる人間を持ち上げた。自宅まではもう少し。
灰色の髪を持つその男が目覚めることはなかった。



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