誰かの隠し事


「死柄木弔、最近多くはないですか?」


バーカウンターに座り、黒霧の出した飲み物に口をつけていた死柄木に声を掛けた。
主語がない言葉だったがそれが何を示しているのか、死柄木には手に取るように分かった。
いずれ話題に出されるだろうと、想定していたことだったからだ。

死柄木は黒霧を一瞥して何も言わずに再び飲み物に口をつけた。
黒霧はしつこく聞くつもりはないらしく、催促するような言葉を発することはなかった。
そんな黒霧に死柄木はため息をついた。


「暇つぶしだよ、暇つぶし」


そういって飲みきっていないグラスをぐるぐると混ぜながら、死柄木は脱力しながら前屈みになった。
黒霧は死柄木の言葉をそのままに受け取って良いものかと考えた。

とある作戦においてしくじったヴィラン連合は壊滅とはまではいかないが多数の負傷者が出た。
その中には死柄木そして出入り口の役割を果たしている黒霧も含まれていた。
最終的には死柄木に先生と呼ばれる、オールフォーワンによって事なきを得たが、黒霧のワープゲートの能力が暴走しランダムな場所にワープを繰り返し、ヴィラン連合は散り散りになった。

負傷した死柄木はとあるマンションの近く放り出された。
そんな傷だらけの彼を治療し助けた人がいる。
名前は如月零という、ごく普通の一般人だった。
彼が他の人より優れていることは、医療知識に長けていることだった。
ただ、得体の知れない人間が血だらけで倒れていた現場に遭遇して、救急車や警察を呼ぶことをしなかったその判断に黒霧は疑問を覚えていた。

故に黒霧はとある情報筋を使い彼を調べた。
それは彼が我々にとって危険人物ではないかどうか、そして単純な探究心からだった。
結果から言えばその医療知識の豊富さは、佐伯クリニックに勤める看護師ゆえだった。
情報としては特に何か裏があるような人間ではなく、信用にあるかどうかはさておき普通の一般人であることが分かっただけだった。
そしてそんな彼に死柄木は随分と信頼を置いているようだった。

最近はよく彼の家に行っているようで、帰ってこない日も多々ある。
ここは彼の家というわけでもなく、黒霧も協力者であれど彼の親ではないので何か問題があるわけでない。
ただ一般人である彼が一体どこまで死柄木を知っていているのか、もしある程度知られていたとしてヴィラン側に不利な情報をヒーローにリークしない確信がないのが問題だった。


「先生は知っているんですか?」


死柄木はバーカウンターに預けていた身体を持ち上げて飲み物を飲み干した。
そして立ち上がると店の裏手にある自室の方に向かっていった。
どうやらかなり触れられたくない話題だったらしい。
普段彼が移動の際ことあるごとにワープゲートを使うくせに、彼に会いにいく時には態々自身で赴くくらいだ。
彼の育て親であるオールフォーワンにも知られたくないことなのだろう。

ヒーローを嫌い、ヒーローどころか世界を壊そうとする彼が信頼している先生にすら教えず、ひたすら守り続ける彼は死柄木弔にとってどんな存在なのか。

黒霧はヒーローを倒すために組織されたヴィラン連合の頭である死柄木弔の補佐。
それ以上でもそれ以下でもない。
大人故に思ってしまうのだ。
もし彼がそばにいたのならば。
幼い死柄木弔のそばに寄り添っていたのならばきっと死柄木弔は"死柄木弔"にはなっていなかったのかもしれない。
そうであれば彼はこの路地裏の薄汚れたバーカウンターではなく、暖かい光と温もりが仕切りに詰まった場所にいたのではないか。


「さて、夕飯は何にしましょうか」


私はたちはヴィランである。
ヒーローを淘汰し、自身の生きやすい世の中を実現する。
彼が彼の意思でここにいる限り、彼は"死柄木弔"である。
もし、もたらればも、そこには存在しない。


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