相乗の総称
「す、すきだって」

マスターが、と。

言い難そうに零れた声音は消え入るくらいに小さい。

アカイトが泳がせた視線の先を一度眺めて、ミルク入りの珈琲に砂糖も混ぜたことを後悔した。

ついに、とも言える一時と共にするには甘すぎる。

「ふぅん」

「…驚かねぇの?」

あのひとがアカイトをどう想ってるか、なんて。

気付かないほうが無理なくらい、分かり易かったのに。

ついでに言えば、アカイトがマスターを、だって。

こちらから見ればあからさまだったけれど、当人が気付いていたかどうかは怪しい。

要はふたりとも大概に鈍く、
似たもの同士、お似合いといえばお似合いだった。

「驚いたんだ?」

「…な、殴って逃げた」

「…。」

「反射、反射的に…」

呆れた。

と同時に彼が今、纏ってる淀んだ空気の謎も解けた。

話があるだなんて。
僕の部屋に来たときはどういう風の吹き回しかと思ったけれど。

溺れる者は藁をも掴む心境らしい。

「それで?なんて言って欲しいの」

大丈夫だとか慰めて、がんばれだとか応援して欲しいのだろうか。僕に?

優言を掛け合うような性分じゃないことくらい、自分だって分かってるくせに。

アカイトはいつもそうだ。
どうにも、こちらの気持ちを逆撫でる。

自己本位で、要領が悪くて、

「…もう無理だとか…言うかと思って」

…どこまでも臆病。

「大体、おかしいだろ。俺を、好きだとか」

「そこからか」

「やっぱ何かの間違」

「もーうるさいな、間違うひともいるんだよ」

アカイトが好きだからおかしい?
そういうひともいるって、それだけの話だ。

自分で自分をどう思おうが勝手だけど、ひとの心情にまで口を出す権利はないと。

一気に捲し立てたから、どこまで理解したかは分からないけど。

「ほんとに、もー…自分勝手もいい加減にして」

深く息を吐く頃に、瞬いたアカイトが勢いに呑まれた顔をして。

「……ああ、ごめん」

珍しいどころか初めて素直に謝ったり、するから。

昇った熱が一気に冷めて少しの間僕まで呆けた。

「…謝る相手はマスターじゃないの」

「ああ…」

だよな、と独り言みたいな反芻が落ちて間もなく。

何か迷うような赤い瞳がこちらを映して直ぐに逸れていく。

「…別に、怒ってないと思うよ」

あのひとのことだから、恐らく。落ち込んでは、いるだろうけど。

「もう無理、では無いんじゃない?」

「そうじゃねぇよ、その…おまえも」

何かあったら言えよ、とか言う。

アカイトに言っても頼りになるとは到底思えないんだけど。

アカイトにしか、解決できないことも確かにひとつだけあった。

煩わしいし、苛々するのに歯痒くて、結局はほっとけない。

マスターがおかしいのなら、僕だって十分おかしい。

なんて、告げたところで君は困るだけでしょう。

「…分かったから、早く行けば?」

口をつけたカップの中身は冷めて、思ったよりも苦く感じた。


end
直後のメイト→ミクオ・v・)つ
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