相乗の相称
『相乗の総称』直後のイト→クオ
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「…いつでも来いって」
「言ったけど」
日付が変わる時刻となると話は別だ。
誰だった?とリビングから飛ぶマスターの声に、来客の名を返してその腕を引く。
「…ほら、上がれ」
「迷惑なら、帰る」
「そうじゃねぇって分かってんだろ」
ミクオの住むマンションから家まで徒歩数分の距離とはいえ、こどもがひとりでふらふら出歩く時間じゃない。
何か起きてからじゃ遅いことはさせたくなかった。
「電話しろよ、迎えに行くから」
家の誰か、マスターかアカイトに言って来たのかと聞いた問いに返事は上がらず。
「マスター、ミクオん家連絡し」
「待っ邪魔、…したくない」
踵を返した服の背を掴まれて足を止める。
誰の、邪魔か。
聞くまでも無く彼と暮らすふたりだろう。
「なに、進展した?」
「…たぶんね」
もどかしい彼らの煮え切らない関係性に気を揉んでいたのは事実で。
喜ばしい話に変わりはないが、やるせない気持ちも混じった。
恐らく初めは同情だった。
第三者から当事者へ、移ろう境がどこにあったか。
ミクオも知らずに越えたのだろうし、こちらも同じだ。
アカイトを想うこの子をいつから想っているのか。今となっては曖昧だ。
「…でも、心配させるよりはマシだろ」
強張った幼い頬を撫でてから摘んで、告げた指摘に頷いたミクオの肩を抱いて室内へ進む。
「俺の部屋、先行ってろよ」
マスターに言ってくると別れた廊下の背後から、呼び止められて振り向いた。
「…泊まってもいい?」
「いいよ」
各々が抱いてる感情は同じ種類の物なのに、向かう先が異なるだけで結果的な呼び名は変わる。
彼らにとっての進展が、ミクオにとっても少しずつそうなっていけばいいと思う。
「なんか…寝れなくて。急にごめん」
「いいよ」
ひとりで居たくないときに浮かんだ相手が俺であるなら十分だ。
惜しむものは何も無かった。
end
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