4人
「カイト!雪!」
山頂の社へ続く舗装された石段で数段先から呼ばれた声に顔をあげた。
「えっうそ」
よく見ろ、とアカイトに促されて見上げた視界を掠める微かな白。
「わあ、マスター雪!」
思ったより距離が開いてたらしく、十数段下の方で話してたふたりがこちらを向いた。
「えっ嘘」
「こっちにはまだ降ってないよ」
「えっすごい、そんなことが…」
「あるわけねぇだろ」
真に受けるなって俺に言った後で直ぐ、早く来いとマスター達に足すあたり。
アカイトも半信半疑なのかもしれないと振り返る頃には、
目を凝らさなくても分かるくらい粉雪が舞い始めていた。
耳も頬も痛いくらいに寒いけれど吐いた息がはっきりと白く染まって楽しい。
「積もるかな?積もると思う?」
「はしゃぐな」
転ぶぞって言ってる方がにゃんこみたいな身軽さで階段を上って行くから。
「待っアカイト待って、危ない」
「あー待て!走るな」
別の寒気がしたのは俺だけじゃなかったらしく、下からマスターの声も飛ぶ。
「もーおまえら遅いんだよ、早くしろ」
「えー」
焦れったそうな顔をしたアカイトに、じゃあ応援してと彼のマスターが苦笑して。
「階段上るマスター格好いいとか…」
「あははいいなそれ」
「マスターかっこいい!です!」
上げた一例にマスターも同意するから、そのまま言ったらふたりに笑われた。
「おまえらは直ぐそういうのを始める…」
馬鹿正直に付き合うなよな、と傍から呆れた声がして。
「上まで来たら言ってやるとか言っとけ」
「…な、なるほど」
溜息混じりに先へ行く背に見惚れるしかない。アカイトは頭がいいと思う。
追い掛けて掴んだ手を握る頃には辿り着いた鳥居の前で裾野を眺めた。
真っ暗な木々の合間に、しんしんと雪が降る。黒と白だけの世界。
その背後では境内に灯る大きな焚き火と囲む参拝客の賑やかな声。
コントラストの強い狭間でそわそわと急かされるまま、マスターを呼ぶ声がハモった。
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