4人
「あとどれくらい?」

カーナビの到着時刻は約30分後になってはいるが。

予測より早く着いたり、かと思えば遅くなったり、当てにならないから聞いたのに。

「もうすぐ着くよ」

運転手から返るのはさっきと同じ回答で、ついでのようにひとの頭を撫でてくる。

それで誤魔化せると思ってる辺り、ナビの適当さは持ち主に似たのかもしれない。

土地の不足を高さで補う住宅街から、人工物より自然が占める景色へと。

灯りが減ってく車窓の変化を眺めているのも、それなりに暇つぶしにはなったけど。

「なんでわざわざ山なんだ」

「なー言ってやって後ろの奴に」

いい加減飽きてきたのが伝わったのか笑ったマスターが宥めるような声を出した。

山頂付近まで車で行けるらしいが、そこからロープウェイを経て、多少徒歩でも登るという。

カイトのマスターの言う多少が、俺と同じ基準なのを祈るしかない気の重さに反して。

「俺、すごい楽しみですよー」

背後から届く浮かれた声に振り向くと、でかいスケッチブックを抱えたカイトが笑った。

「おまえそれまたやってんのか…」

「後ろの家族も目的地一緒だって、凄いな」

同じく浮かれた大人が手を振った後方車の助手席で、小学生くらいの子供が無邪気に手を振ってくる。

「次なに聞きますか?」

「パパとママどっちが好き?」

「ぱ、ぱ、と…」

「おい、やめてやれよ」

言われるままに画用紙へ質問を書きだしたカイトを思わず制した。

どう見ても運転手は父親だ。回答によっては居た堪れないと思うのに。

「彼氏は?いや、好きな子は?のがいいか」

ルームミラーの角度を変えて笑ったマスターまで便乗しだした。

「それだ、それも聞いて」

「す、き、な…」

「ばか、やめろって」

「いずれ知る日が来るんだから…」

いや、何も今日じゃなくてもしかも年の瀬だ、と。

反対意見を粘った結果、アカイトは優しいなぁと悪乗りが過ぎる大人ふたりが感心した顔をするけど。

「いて、こら危ないって」

「自分の所為だろ!」

あきらかな揶揄が混じる隣の奴をもれなく殴っておいた。

合間にも、世の父親に無害な問いを済ませたらしく。

「あの子、ロープウェイ乗ったことあるって」

若いのにすごい、と感心したカイトが後方車へ尊敬の念を送っていた。


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