マスタS
「いいこと思いついた…」

「いい、聞きたくねぇ」

隣人の急な申し出を丁重に遮った、筈なのに。

「なぁ日の出、日の出見に行こう」

さも名案だと言わんばかりの声色に吐いた息が白く染まった。

「…聞きたくないって言ってんだろ」

長らく友人をやってはいるが、
本当にこいつは思いつきだけで生きてるんじゃないかと窓を拭く手を止めて。

隣を見ても同作業中の隣人は、バルコニーを隔てる壁で見えないのだけど。

「なんだよ、実家帰んないんだろ?」

「…帰んないけど…」

都心に近い住宅街は迎えるよりも向かう側、帰省者の住人が多く。

年末へ近づくに従って静けさの増した空気が、より体感温度を下げる気がする。

陽の射す今でさえクソ寒いのに、明け方はどうなるんだと。

考えただけで気が滅入るのは、こちらだけらしく。

「今日天気いいし!絶対綺麗だ」

続く誘い文句を耳に、窓にでっかくハートを描いた。ガラス用クリーナーで。

リビングを横断中のアカイトに微笑むと、カッと染めた顔を顰めて何やら大きく口が動くが。

聞こえなかったのは窓の所為で故意じゃないから、自由に解釈しておいた。

「ふたりだってきっと喜ぶ」

「…うーん」

まぁ、確かに。

連れ出すまではなんだかんだと渋っても、出掛けてしまえばはしゃぐのはアカイトもカイトと同じだ。

日の出どうこうの前に、深夜に出掛けるって非日常だけでも喜ぶとは思うけど。

「…帰りの運転する?」

「するする」

「あーでも行きが俺だと夕飯作るのだるいな」

「なら俺作ろっか鍋しよう鍋」

「…何がそこまで」

おまえを駆り立てるんだと言い掛けて止めた。愚問だ。

面倒臭さが負けた時点で俺も、返答に呆れられるほどの異論を持ち合わせてない。

そうと決まったら早く掃除終わらせて仮眠しないと、と弾む声音に相槌を打った。


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