マス赤+カイト
「浮気だな」
クッションを抱えたアカイトがあまりにもはっきりと言い切るから。
「ち、違うよ!」
俺は立ち上がった勢いで全力否定した。
けど、アカイトは見上げてくるだけで納得した様子はない。
「だって帰りが遅いんだろ?」
「う、うん」
「しかも携帯が繋がらない」
「う…うん」
「浮気だ」
どころか、またしてもきっぱりした断言に力無く腰が落ちたソファで。
じわりと視界が滲んだ途端、ゴツと景気のいい音がする。
「い…っ」
「おまえ、何カイト泣かしてんだ」
「ってー…おま今何で殴…っ」
「ああ悪い、手が塞がってたから」
「陶器は凶器だぞ!」
アカイトのマスターが笑って、片手のマグカップをローテーブルに置くと、
「こいつの言う事、真に受けちゃだめだよ」
空いた手でアカイトの頭を擦って、もう片方の珈琲を俺に手渡してくる。
「はい」
思わず涙も引っ込んで、俺も笑って頷いた。
マスターの帰りが遅くなって暫く経った夜だった。
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