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身動きが取りづらいこの体勢で見下ろされると焦ってしまいそうになる。でも落ち着け、大丈夫。桐嶋は乱暴な人間ではないし、アスレチックの後もさっきまでも、俺が動揺しなければ引いてくれたんだから。
意識して瞬きをせず真っ直ぐ彼の目を見据えた。

「桐嶋。ごめん、退いてほしい」

瞬間、文字通り飛び退いた桐嶋。ほら、大丈夫だった、ほっと息を吐いて俺も頭を起こす。

「……悪い……!」

「いや……」

良いとは言えないけれど、怒ってはいないので首を横に振った。ただ急にどうしたのかと疑問が残る。大浴場へ向かうまでは普通だったんだ。寮では風呂の時間に一緒になることだってあったのに、なぜかさっき謝られたのも気になる。

「そういえば何か言いかけなかった?」

「あー、うん、堰って髪上げると雰囲気めちゃくちゃ変わるんだなって。なんかオレ、冷静じゃなくなるんだよな」

「……え」

立ち上がった桐嶋は俺に背を向けて、バスルームから濡れた足を片方出した。

「びっくりさせてごめん。今ちょっと顔見れないからこのまま行くな!」

そのまま滑るようにバスマットへ下りて行くのをぼうっと見送る。手と足、同じ方一緒に動いてる。そんな桐嶋だから気を抜いたのか?前髪の壁を取っ払っていたことを忘れていたんだ俺は。






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