Novel / SS

マサキと蘭丸

偶然見かけたのは、すごく綺麗な人で。小学生だった俺は初めて一目惚れをした。

場所は図書館。俺は趣味の音楽関係の本を読んでいた。何やら専門的過ぎるようで、この場所は人通りが少ない。だからゆっくり静かに本が読めるから気に入っている場所だ。いつものように本をペラペラめくりながら、時間を潰しているとき。すみません、と頭上から声がした。本から視線を上に移せば、ピンクの長い髪を二つに分けた少女が、横文字ばかりの分厚い本を小脇に抱えていた。
「クラシックの本って、この辺りかな?」
いきなりの事で、数秒間思考停止する。が、ハッとなり「え、あぁ、あの、」と意味の無い単語の羅列が口から溢れる。そして頭の整理が着いた後に、そこの棚の右端がクラシック関係の棚です、と短く答えた。
「ありがとう。」
軽く会釈をされ、その人は離れた。さらりと髪の毛がたなびき、少し甘いシャンプーの香りが俺を包んだ。
少しの緊張感から解かれ、また先ほどと同じように本を読もうと閉じたページを開く。しかしなぜか文字を見る気になれなくて、頭の中にはさっきの少女の笑顔が浮かぶだけ。俺らしくない、俺らしくないと頭を振ってみるけれど、ムクムクと膨れ上がる気持ちは「またあの子に会いたいな」という感情だった。

それから毎日のように図書館に、あの場所に行くようになったけれど二度と会うことは無かった。"二度あることは三度ある"なんて言うけれど、そんな甘いことは無いと現実を突きつけられたようだった。

そんな出来事を忘れかけていた中学校一年のある日、友達が一つの手がかりを教えてくれた。
「多分さ、お前があったピンクの人。雷門中学校のニ年の先輩だぜ?」
その瞬間、一気にあの人に会いたいという気持ちでいっぱいになった。雷門中か。そんなに家から遠いわけでもない。親に頼めば、なんなく了承してくれて、変な時期からの編入という形になったが俺は無事、雷門中学校に転校することができた。

転校当日、あまりにも嬉しくて朝早くから学校に来てしまった。さすがサッカーの名門、というところか。サッカー楝なんかがある。きょろきょろ辺りを見回していたら、今まで待ち続けていた見覚えのある後ろ姿を見つけた。制服ではなくて、黄色がベースの何かのユニフォームを着ている。こっそり後をつけていけば、ついさっき見ていたサッカーに入っていった。
あの人は、サッカー部なんだ。
やっぱり来てよかった。居たんだ。ずっと好きだった人。
抑えきれない嬉しさに、フフッと笑みがこぼれた。今日にでもサッカー部に行ってみよう。俺は新しい朝、清々しい気持ちで職員室に向かった。




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一目惚れは男の娘でしたっていう笑い話。



南沢と倉間

ケータイにメールが届いた。最近ずっとメールが来る。いきなり転校したからだろうか?同級生から迷惑メールのように同じような本文のメールが毎日途切れなく来る。
なんで辞めたの。なにがあったの。なんでなにがなんでなんで。
俺は一切答えるつもりもないし、返信するつもりもない。嫌ならアドレスを変えればいいのだけど、なんだか出来ず仕舞いである自分もまだまだ子供だと思う。

そんな中、またいつものようにメールが来た。しかし違ったのは着信の音。前、こいつからくるメールだけ着信音を変えていたんだっけ。今思えば恥ずかしい。もうメールは見ないでおこうとと思っていたけれど、もやもやと膨らむ気持ちに逆らえず開いてしまった。
「やっぱり。」
アイツからだった。倉間典人と液晶画面に写っている。しかし本文は空白で、何も文字は打たれていなかった。ただ真っ白なメールの本文。だけどそれだけでもなんだか胸が苦しくなって。
似合わない涙が頬を伝った。

さあ、俺はもう戻れないから。


『既読メール一件消去しますか』
『はい』



倉間と南沢

「は?」
嘘だろ。南沢さんが転校したって。そんなの一度も聞いてねーよ。浜野の声が意識的にシャットダウンされて、目の前が真っ暗になった気がした。
待って、待って、待って待って待って。なんでだよ、あんなにサッカー好きだったくせに、また戻ってきてくれると信じてたのに。またアンタとバカみたいに冗談言い合えるかと思ってたのに。
居ても立ってもいられなくて、三年の教室まで全力で走った。南沢さんが居た教室に着く。整わない呼吸のまま中を見渡す。その姿はどこにも居なくて。いつも窓の外を眺めていた姿も無くて。やっと呼吸が整いだした時、三国先輩が辛そうな声で俺に言った。

南沢はもう居ないんだ。

ああもうなんで。
どうせならアンタ本人から聞きたかったよ。俺の中で何かが溢れた。



円堂とヒロト

漢字テストするぞ。先生がそう生徒達に行った。
俺はもちろん勉強していなくて、ハラハラも何も感じない。諦めがついたからかな?
シャーペンをくるくる回しながら配られたプリントを後ろに回す。パッと全体を見るが、難しそうで書ける気がしない。
まぁ一応最初から書いてみるかな。確実に空白が多くなっているなか、ひとつの単語に胸が高鳴った。
"基礎"
あ、ヒロトの漢字だ。基山ヒロトだもんな。そういえばヒロト今は何してるんだろう。またサッカーしてたら嬉しいんだけどな。だってあんなにサッカーうまいんだぜ?やってなかったらすげーもったいないじゃんかよ。あのシュートの威力といったら半端なもんじゃないしさ。そういえばヒロトってスタイル良いよな。スタイル良い方がシュートの威力も強いのかな。そんなわけないか。というか今考えれば、ユニフォームからチラチラ見える腕とか脇とかおへそとかすごい…エロかったよな。ヒロトの白い肌はとても綺麗だったな。ちょっと後を付けたら顔を真っ赤にさせて照れてたな。かわいかったな〜。あの髪もすごいサラサラで、顔を埋めたらぽかぽかする香りがしてさ。あー、ヒロトに会いた
「円堂くん。」
「い、うぇ?」
いつの間にかテストが終わっていたらしく、プリントを回収しようとクラスメートがきた。ああ、ああどうぞと渡せば、真っ白な答案。やべぇ。

「ま、いっか。」
と大きく伸びをして、今日家に帰ったらヒロトに連絡してみようと胸を弾ませた。



(好きな人の漢字があったら嬉しくなっちゃう系男子、円堂守。)


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