Novel / SS

霧野と神童

「神童君、ちょっといい?」
「あ、ごめんな。神童いま風邪ひいて声が出ないんだ。」
横から霧野が説明した。俺はこくりと静かに頷く。さっき話しかけてきたクラスメイトはマスクをつけた俺を見て、あぁと納得しお大事にねと言い離れた。

「なかなか風邪治らないな。大丈夫か?」
心配した様子で霧野が顔をのぞき込む。あぁ相変わらず綺麗なエメラルドグリーンの瞳。そんなことをゆっくり考えながら、小さな声で大丈夫と答えた。
「全然声出てないぞ。無理するなよ。」
またこくりと頷けば、霧野は安心したように微笑んだ。
本当は風邪なんかひいていない。いや、ひいていたけど治ってしまった。実際に声も出ないほどの風邪をひいた。三日前に。その時の霧野はずっと俺の側にいてくれて、話さなくても意志が通じて、いつも以上に目があって。
そのカンジから抜け出せなくて、まだ霧野には言い出せていない。

「神童?どうした?」
(気づく?俺の汚い芝居)
なんでもないと頷いて、俺はマスクを一度外した。


霧野とマサキ

「マサキ、ちゃんと寝とくんだよ?」
ふあいとやる気のない返事を一つ。ヒロトさんが毛布をかけてくれたけど、俺の背筋をかける悪寒は全く治まらない。
久しぶりに風邪をひいた。なんとかは風邪をひかないってのは嘘だったねってヒロトさんは笑ってたけど、あいにく俺には軽いジョーク(だろ?)に笑う元気も残っていないくらい、ひどいものだ。

喉は痛いし頭も痛い、鼻水も止まらないし声も変、あーもう最悪。目をつむって寝ようとした時、携帯がなった。
メールならすぐに切れると思い放っておいたのだけど、なかなか切れないところをみるとどうやら電話がかかってきているみたいだ。手をのばしても届かないところにあるから出るのが面倒くさい。しかしこのまま鳴りっぱなしなのもうるさくて嫌だ。仕方なく重い体をおこして鳴り続ける携帯を持った。
「え。」
まって、この、ディスプレイに映っている名前は、何度見ても。

(逆に熱が一気にあがった)


狩屋と(霧野)

霧野先輩のシャンプーは家族と共同で、女性用シャンプーを使っています。
狩屋はそんな霧野先輩の甘い香りが好きです。霧野先輩と擦れ違うとき、ふわりと甘い香りが狩屋を包むのです。
ある時、クラスメイトの女の子から同じ香りがしました。甘い、甘い香りです。
それからその女の子のことを、自然と目で追うようになりました。
(霧野先輩みたいに)いい香りだな。
自然と彼女のことを見てしまう、気にしてしまうということを友達に相談してみると、それは恋だと言われたのです。
そうか?これが?恋?
(誰かと重ねて居ることにも気づかずに)


神童とマサキ

ほんとに勉強教えてくれるなんて、思ってもみませんでしたよ。さすがみんなのキャプテンですねー。いや、別に。

図書室にはカリカリカリと俺のシャーペンがノートを走る音だけ。あとは目の前で本に目を通している神童キャプテンがページをめくる音。それだけ。
別に。教えてほしかった訳じゃないけど。だけど。うーん。
「どうした?分からないとこでもあったか?」
その声にはっとなり意識が自分の手もとに移った。いつの間にか先輩は俺のノートを覗きこんでいて、すぐ鼻の先に先輩の顔がある。
「え、いや!」
思わぬ近さに俺は驚き、後ろに身をひいた。ちょうどタイミング良く消しゴムがコロンと落ちる。慌てる中拾おうと手を伸ばせば、またこれがタイミング良く先輩の指先にコロンと触れた。
「」
声にならない声。
すぐに手をひく。俺も今まで見たことないくらいの早さだった。
げ。よく考えてたら、すっげー失礼なことしたんじゃねーの?先輩気にしてないよな…。
チラリと横目で先輩を見てみれば、先輩はきょとんと目を丸くさせて、俺を見つめている。そして一言。
「さっきの、少しドキドキしたな。」
にこりと笑顔でそう言った。

先輩、意味わかんないです。どんなドキドキなんですか。俺もドキドキしましたけれども。

ドキドキ。

←|
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -