短編 | ナノ



結城がニューヨークに行くお話です……。何故かはご想像にお任せしますごめんなさい;


ごめん。

そう呟いた哲也の声はキスしてもいいか?と聞くときよりぎこちなくて、震えていた。
私はそんな哲也の手をぎゅっと握ってうん。と涙が零れそうな目を下へ向けて頷いた。

哲也は明日、ニューヨークへ旅立つ。
私はそれを止めなかった、
哲也の夢がそれで叶うなら。哲也がそれでいいなら、哲也が、私と居なくても大丈夫なら。

やっぱり、行かないで………。

でも、夢を叶える為に行って。

最後まで行かないで。なんて言葉は喉に詰まっては嗚咽へ変わっていく。
哲也はずっと、私の名前を呼びながら頭を撫でてくれる。

「はなこ」

胸が、きゅー。と締め付けられる。
哲也の事を考えると何時もこうだ。
胸が痛くて、泣きたくなる。

行かないで。
行かないでよ。

ぼたぼた流れる涙は哲也の服に染みをつくる。

「……はなこ」

哲也の乗る飛行機のフライト時間が迫っている。

「はなこ」

もう一度名前を呼ばれて、顔を上げると哲也が困った顔をしていた。

「泣くな。」

「……うん、」

「………寂しくて死ぬなよ?」

哲也が真顔で言うから、思わず笑ってしまった。

「ふへ、うさぎじゃないんだから」

「……そうか。じゃあ、俺はウサギなのか」

ぎゅっ。と大きな腕と胸に抱きしめられ、あぁこの大きな体にしばらく抱きしめられることも、キスをされることも、無くなるんだ、
そう考えると哲也のど天然な反応にも笑えなくなってしまった。

「………はなこ」

「んっ…」

突然の口付けはだんだんと深い物に変わっていき、息が苦しくなってきたところで哲也は唇を離した。

「好きだ」

ひゅっ。
息が詰まって、わたしも。と掠れた声がでた。

優しく笑うと哲也は、私の頭に手を置いて行ってきます。
そういった。

「行ってらっしゃい」

手を振ってゲートをくぐって行く姿に何度も何度も

(行かないで)

行ってらっしゃい

(行かないで)

行ってらっしゃい早く帰ってきてね、そう願っていた。






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