彼女は大変なものを奪っていきました

・日記で書いてたパロの続き
・刑事雪男×怪盗シュラ



硝子の割れる音が暗闇に広がる。月明かりもささない台座の周りには粉々に砕け散ったショーケース。中には王様のように大ぶりの宝石が鎮座している。素早くそれに手を伸ばした所で世界が切り替わった。眩しい。光源に、照らされる。

「……しつこい男は嫌われるにゃ」

「面白い事を言いますね泥棒さん」

どうみても若すぎる、いっそ幼い顔つきをした彼はシニカルな笑みを咲かせた。完璧に配置された部下を一糸乱れず統率する。警察の攪乱が大得意な彼女にとって、苦手極まりない相手であった。


 さてどうしよう。内心で逃走経路を割り出し始める。窓、は駄目。こいつが予防線張ってる。扉も多分外までガチガチに警備を固めてるだろうし、既に建物の周りも警官に埋め尽くされてるだろう。まったくもって、嫌な相手だにゃー。窮地には変わりないのに変に高揚する心臓。自分はきっと根っからの泥棒なんだろう。手に持った宝石をポケットに放り込み生地の裏からお目当てのものを取り出す。

「プレゼントだよ」

 投げつけるのはベタでも使える煙幕。閃光玉ミックスの特別製だ。

 上がる驚愕の声と混乱の叫び。うまい具合に人ごみを擦り抜けて換気口に猛ダッシュ、したところで肩を捕まれた。振り返らなくたって相手ぐらいわかる。
 つけた特殊ゴーグルに見上げるのはいつものライバルとも言うべきやつ。

「僕を置いてかないで下さいね?」

 あー、やだやだ。ひ弱そうな顔して鍛えてるんだもんこいつ。固くなっている指の腹、大きな手。どんどん成長するなぁ。

「私には心に決めた人がー」
「戯言は後で聞きますよ」

 次第に収まっていく煙幕に焦る。ゴーグルをかけている私と、特殊な眼鏡をかけている雪男。今のところは多分二人しか視界が確保されていないがあと一分程度で効果が切れる。流石の私もこの大人数を相手に真正面から逃走劇を繰り広げるのには無理がある。
 しかし当然ながら最早因縁の相手となりつつある雪男は離す気はないわけで。小細工を警戒してか肩以外には触れてこない手には物凄い力が込められていた。

「……雪男、お前もの返すから見逃してくれたりは」
「しませんよ。誰が泥棒と取引しますか」

 うーむ。余裕を装っては見たものの正直もう欠片もない。どうしよう、つかまるなんてつまんないことはしたくないしなぁ。硝子越しにあった瞳に、一か八かの悪戯を思いつく。


「あっ」

「そんな子供騙しに、ッ!!!」

 二段構えの不意打ち攻撃。指差しで視線を揺らがせないのは想定どおりだからそのまま偉そうなネクタイを引っ張って顔を衝突スレスレまで近づけた。意外と唇は手入れがされているだなんて馬鹿みたいな感想をぶつけようか迷う。青い瞳が状況を受け入れられずに揺らぐ。
 ポーカーフェイスを崩さない雪男の久々の素の顔を見れたのも収穫だにゃー。多少の身長差は背伸びでカバー。予想外に純粋な反応に再び笑みを漏らす。
 するりと一瞬緩んだ掌から肩を外して近寄った時に逆の手で盗み取った手錠を筋肉質の手首にはめる。ここまで凡そ三秒。自己ベスト更新だ。冷たい手錠の感覚で我に返ったのか雪男が混乱から焦った顔を晒す。形勢逆転だ。

「じゃあ、また会うことがないといいけど」

 反対側は鉄ポールにくっつけて。ドラマによくある手法を再現したら腕を伸ばしてくる。自分で言うのもなんだが華麗にかわして換気口に飛び込んだ。暗いのと湿気と狭いのと条件は最悪。だけどなんだかまだ心臓がドキドキして、言葉とは裏腹に次会うのが楽しみだと思った。



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