境界線


 大丈夫だから、泣くな。

 声がする。泣いてなんかないし、自分はそこまで弱くない。なのにそうやって差し伸べてくる手が邪魔で仕方なくて振り払う。馬鹿にしないで。私はそんなに弱くない。

 行くなよ。

 必死な様子で紡がれる言葉に呆れすら出てくる。あんたのためにいかないなんてありえないけど、なんでそんな必死なのよ。向こうに踏み出しかけた一歩を止める。いつもより余裕がないあんたってのも笑えて面白いわ。

 俺、出雲がいないと駄目だから、今度は俺がお前を守るから。

 馬鹿。あんたなんか守って貰いたくないわよ。自分の力すらまともに操れないくせに何言ってんの。今回だって焔に頼って暴走したくせに。私が止めなかったらどうなってたと思ってるの。振り向きたくはないけど、話ぐらいは少し聞いてやってもいいって思ったから本当にちょっとのつもりで座り込む。どこまでも白い世界でそうしていると、後ろにいるはずのあんたの声すらあやふやになってくるわね。

 頼むよ……。

 切なさそうなその声にとうとう振り向いてしまった私は奥村に抱き締められた。学園の制服はところどころ焦げ臭いうえに血の匂いまでして最悪。
 私も、似たり寄ったりの格好をしているんだろうけど。ここまで来たからには引き返せないと腹をくくる。自分の行動に何時だって後悔はないし、今回だってそのとおりだ。でもあんたを巻き込む気は最初からない。

 そっと、名残惜しいなんて欠片も思ってないけど一回り大きい身体を押し返す。ここが夢なのか、境目の世界なのかよく分からないけれど、奥村をついてこさせちゃいけないし、私がそっち側に戻るのが無理な事は不思議とよく分かっていた。

「ばいばい」

 あんたといた何ヶ月か、本当に楽しかったわ。なんて台詞死んでも、まぁ本当に多分死ぬんだろうけど言わないけど。絶望に歪む奥村の顔を見るのが、なぜだか今日だけは嫌じゃなかった。あんたなんか、絶対に巻き添えにしてやらないわよ。







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