羊の皮を被っています


 出雲ちゃんが、雪ちゃんに告白をした。
 結果は聞かなくても分かっていた。多分、彼女も。


「ありがとう、とかっ、いらないのに…………ッ」

 ぼろぼろと泣いている出雲ちゃんにかける言葉なんてなくて、ただただ黙って背中をさすってあげるくらいしか私には出来ない。出雲ちゃんの綺麗な髪の毛から良い匂いがするなぁなんて我ながら不謹慎な感情をこっそり抱きつつ、誰もいない教室で二人きり。シチュエーションとしては満点なのだけれど、裏を返せば全く意識されてないと言う事で。

 ……誰だって、同性相手に気にしたりするはずなんてないか。霧隠先生に片思いしてる雪ちゃんに片思いした出雲ちゃんよりよっぽど私の方が不毛だ。今だって出雲ちゃんの思いを勝手に過去形にしてる。出雲ちゃんが折角私を頼ってくれてるのに、友達として気の効いた言葉すらいえない。出雲ちゃんがまだ片思いを続けるのが怖い。例え私を意識してくれなくても、他の誰かのものとしてはっきりしてしまうのが。

 綺麗だな。
 分かっていながらちゃんと思いを告げた彼女の気持ちはとても純粋だ。庭に生えている蒲公英みたいに真っ直ぐ伸びた彼女の気持ちは私とは比べ物にならないくらい。雪ちゃんは器用じゃないからきっと好きじゃない人以外とは付き合わない。それくらい、出雲ちゃんにだってわかってた。でも言葉にしなきゃ始まらない、なんて。
 小さな胸に抱えきれないくらい思いを溜め込んでる私とは大違いだ。

 好き。手を繋ぎたい。キスもしたい。もっともっと出雲ちゃんを知りたい。

 言いたい事全部飲み込んで友達面して笑うなんて最低だ。可能性が無いからって簡単に諦めて、出雲ちゃんに思われてる雪ちゃんを僻んでる。雪ちゃんがどんなにいい人か私だって知っているのに。雪ちゃんは多分、私と霧隠先生が崖から落ちそうになっていたら私を助けてくれるだろう。弱い人の、守るべき人の味方であると笑っていたから。祓魔師としての矜持と使命を何より優先させる人だから。くしゃりと笑う、思い出の中の雪ちゃんの笑顔に胸を刺される。
 でも私はどうだ。たとえ出雲ちゃんと他の百人が崖から落ちそうになっていても私は出雲ちゃんに手を差し出す。誰より何より彼女を優先させる。それが自己満足でも、だ。
 


 とうとう古い教室に夜の帳が降りてきて、暗くなっていく。未だに安定しない呼吸を吐いている出雲ちゃんは自分を落ち着かせるように深く息を吐いた。着物の裾から手を離されたのが少し惜しい。見上げるような出雲ちゃんの視線と自分の視線がぶつかり合って訳もなく目を合わせられなくて涙目の彼女から目を逸らす。

「……あんた、なんで泣きそうになってるのよ」

「へっ!?」

 え、だって泣いてるのは出雲ちゃんであって。告白したのもフラれてしまったのも出雲ちゃんだし。私はそんな。心の中で言い訳しても本当は泣きそうになっている自分がいるのもわかってる。言葉にする勇気すらない自分の小ささと、生まれに対するぶつけようのない恨みが雫になって零れ落ちそうなのだ。

「な、そんな事ないよ! あっ、ハンカチ、ハンカチいる?」

「何テンパってるのよ……。本当お人好しね、ばっかみたい」

「えっ、そんな事ないってば」

 さっきまで泣いていたのに今は眩しいくらい綺麗に笑い声が耳をくすぐる。声だけでこんなに可愛いなんて卑怯だよ。誤魔化すように変えた話題にくすくすと笑ってくれる出雲ちゃんの優しさが痛かった。ごめんね、出雲ちゃんの為に泣きそうなんじゃないの。こんな時まで自分の為だなんて、なんて私はひどいのだろう。

 差し出したハンカチを仕方なさげに使ってくれるのがとても可愛くて。伸びをして、さっさと帰るわよって照れくさそうに鞄を持つ出雲ちゃんにどきどきして。
 
 それでもきっと、この気持ちをあなたに告げる事はないから、純朴な少女の振りをして無邪気に笑った。



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