君と僕の関係


 あまり形良いとは言えないそれは当初何の物質か分からなかった。崩れてはいるがパステルピンクの紐はきっとリボンであろうし、何故か四角になっていない包装も定番のプレゼントであろう。多分。

「あーっと、ありがとお?」

 何とかひねり出した言葉は彼女のお気に召さなかったらしい。分かりやすく眉間に皺を寄せられて、ただでさえ仲がよいとは口が裂けても言えない幼なじみを怒らせた事を知った。今日は怒らせるつもりなんかなかったのに。中々どうして上手くいかない。制服に腕を通していた頃とは違ってもうお互い大人なのに、蝮の前では変わらず子供みたいな反応を繰り返す自分がいい加減あほらしかった。きっと弟達の方がずっと大人だ。

「別にあんたなんか義理や義理。どうしてもあげな可哀想やって言うから」

 照れているような頬にどぎまぎする。怒りながらも律儀に俺が受け取るまで腕を差し出し続けてくれるらしい。彼女が気まぐれを起こさないうちに引っ手繰るようにチョコを頂く。こうして彼女がバレンタインのチョコレートとやらをくれるのは初めてだった。去年までは蝮が俺にくれた事はなかったし、俺も期待している素振りを見せた事はなかった。渡された彼女らしからぬセンスのラッピングは誰の趣味だろうか、なんて考えるまでもないのだけれど。流石に馬鹿みたいだと思う。それでも変わらずここに意識が行き着いてしまうのだから仕方がないのだ。

 喧嘩腰ではない彼女に少し意地悪をしたくなって、自分でも小学生のようだとわかっていながら余計な言葉が口をつく。ちょっとでもいいから今日は一緒にいたかった。以前までとは変わってしまった関係が、頭を占有している。

「別にお前から貰わなくたってたくさんもらえるからええし」

 嘘だ。
 本当は誰より彼女のチョコが一番欲しい。美味しくなくたって、形が整ってなくたって構わない。蝮からのチョコが欲しいのだ。彼女を前にするとどうにもからかいが混じる自分では一生伝えられることはないけれど、いつだって本心は彼女を求めていた。ずっとずっと、小さい頃からそれは変わらない。

「あっそ。糖分取りすぎて倒れんようにな」

 浮かれたような蝮には普段の皮肉も棘も何もなかった。バレンタインという行事に浮かれているのか、それとも。


「おっ。蝮と柔兄やん。丁度よかった、はいこれ俺から」

 唐突に現れた金造に買ってきたと思しきチョコを押し付けられ、代わりに蝮の視線を奪われる。俺といた時よりは十倍優しい目をして金造を見つめる彼女を見て、彼女が金造に会えるから浮かれていたことを認めざるをえなかった。本当は認めたくなんてない。だからといって大事な弟と、大好きな幼馴染の幸せをぶち壊してまで蝮を攫っていく勇気もなくて、ただただ貰ったチョコを握り締める。
 彼氏の兄と、弟の彼女。
 この間、金造がついに彼女に想いを告げたその日から変わってしまった関係はもう二度と戻りはしない。金造が彼女を好きなのは知っていた。蝮が金造を好きなのも知っていた。だけど、俺にもという期待があったのは否定できなかった。誰よりも彼女を理解しているなんて、自惚れた自負さえあった。
 ……だけれど、彼女が選んだのはにこにこと俺に懐いてくれている弟で。気さくで熱くなりすぎるきらいはあるけれどいざという時は身体を張れる。兄である自分から見ても金造は自慢の弟だった。
 諦めなければ。そう言い聞かせれば言い聞かせるほど頭は考えは蝮にしか向わなくなっていく。いっそ彼女が無視してくれればよかったのに。彼氏の兄だからといって気を使ってくれなければ、まだ諦めきれたかもしれない。だけれど勝手に積もるこの想いは、俺を潰すように溢れていく。

「金造も来たことやし、部屋戻るわ」

 何気ない風を装うのは最後に残った意味の分からないプライドだった。



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